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ダイハツが100台だけ作った「フェローバギィ」は、若さと反骨精神をアピールする遊びグルマでした【夏のビーチカー_05】

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TEXT: 長尾 循(NAGAO Jun)  PHOTO: ダイハツ工業/AMW編集部/勝村大輔

1970年にダイハツが販売した軽のレジャーカー

かつて1950年代から1970年頃にかけ、自動車史の中に小さいながらひとつのムーブメントを形作った「ビーチカー」と呼ばれるジャンルのクルマたち。その多くは量産実用車のコンポーネンツを利用して生み出された派生車種だった。今回は、わが国でダイハツが1970年に発売した純然たるレジャーカー、「フェローバギィ」を振り返ろう。

世界的にビーチカーが若者の自由の象徴となっていた

1960年代中盤以降、VW「ビートル」をベースとした「メイヤーズ・マンクス」を筆頭に、続々と現れた「デューン・バギー」。これはもともとアメリカ西海岸のクルマ好きがオフロード・レースやレジャーといったごく私的な趣味のために作った「スポーツギア」だったが、スティーブ・マックイーン主演の『華麗なる賭け』(1968年)の劇中に登場し強い印象を残すなど、やがてそれらは既存の体制や価値観に疑問を抱く若い世代にとっての自由の象徴となっていった。

さらにそこに、バギー誕生以前からヨーロッパの数寄者たちが好んで乗り回していた「ビーチカー」のイメージも加わり、実用性を顧みない陽気なオープンカーとしてのビーチカーの人気は、世界的なものとなっていった。

登録上は軽商用車あつかいだったフェローバギィ

そんな時代の潮流に対応した自動車メーカーのひとつが、わが日本のダイハツであった。同社は1968年の第15回東京モーターショーで軽自動車規格の「フェローバギィ」の試作車を展示。お手本となった彼の地のバギーにならい、ショーでも話題となったフェローバギィは、100台の限定生産ながら1970年には実際に市販された。

もちろんベースとなった「フェロー」とは1966年にデビューしたダイハツ初の軽乗用車。基本レイアウトはコンベンショナルな3ボックスのFRと、ダイハツらしい手堅い設計のモデルであった。このフェローにはセダンをベースにしたフェローバンやピックアップもラインアップされており、このフェローバギィはさらにその派生車種の「軽便なピックアップ」というポジションだ。バギーを名乗っておきながら最大積載量150kgの商用車登録だったのは「2人しか乗れない酔狂な遊びグルマなど、贅沢でけしからん」と考えがちなお上に対する予防線であろうか。

トヨタと提携後の新たなダイハツをアピール

オープントップで車重は440kgとベースモデルより50kg以上も軽量なフェローバギィではあったが、もともとが360ccのFR、10インチタイヤの軽自動車ということから、やはりオフロードでの本格的な機動力は限られる。これはあくまバギー・カルチャーの雰囲気を追体験するためのクルマで、もちろん当のダイハツもこのクルマでバハ1000レースに参戦するなどとは微塵も考えていなかったはずだ。

第15回東京モーターショーの前年、1967年にはトヨタと提携したダイハツ。そんな同社がこのタイミングで、体制に与しない反骨精神の象徴とも言えるバギーを量産・市販したことは、若々しくアクティブに新たな道を歩み始めたダイハツ、というイメージをアピールするうえで大きな役割を果たしたことだろう。

この時代、バギーも含めた「ビーチカー」「レジャーカー」は、単なるクルマの一ジャンルを超えた若者文化のアイコンだったのだ。

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  • 長尾 循(NAGAO Jun)
  • 長尾 循(NAGAO Jun)
  • 1962年生まれ。デザイン専門学校を卒業後、エディトリアル・デザイナーとしてバブル景気前夜の雑誌業界に潜り込む。その後クルマの模型専門誌、自動車趣味誌の編集長を経て2022年に定年退職。現在はフリーランスの編集者&ライター、さらには趣味が高じて模型誌の作例制作なども手掛ける。かつて所有していたクラシック・ミニや二輪は全て手放したが、1985年に個人売買で手に入れた中古のケーターハム・スーパーセブンだけは、40年近く経った今でも乗り続けている。
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