最高速度引き上げで効率アップさせるのが目的
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「高速道路での大型トラックの最高速度引き上げ」です。運送業界では2024年問題が注目されており、その対策として制限速度引き上げが可能かどうかの検討されることになっています。仕事柄、高速道路での移動が多いレーシングドライバーでありモータージャーナリストの木下隆之さんの目にはどう映っているのでしょうか?
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物流業界にとっていい結果になることを願って……
警察庁は、大型貨物車の高速道路における最高速度を100km/hにするか否かの検討を始めると発表しました。
これまでは普通車などは基本的に最高速度が100km/hと定められていました。トラックは80km/hです。そのトラックの最高速度を引き上げることが検討の骨子のようですね。
これはトラック運転手の不足が予想される、いわゆる「2024年問題」が理由のひとつ。政府はトラックドライバーの時間外労働の上限を、2024年には年間960時間に制限すると発表しました。これまで過重労働を強いられてきたトラックドライバーへの対処ということが名目になっていますが、その功罪はともかく、2024年からはトラックドライバーが不足し、物流の停滞が予測されるのです。
トラックドライバーが不足しているいま、さらにドライバーの不足を招くような、経済に冷や水を浴びせる施策が必要なのかの議論もありますが、ともあれ、2024年は物流が混乱するはずですね。その弊害を抑えるために、高速道路を走るトラックの最高速度の上限を上げようとしているわけです。
速度が時速20キロ上がれば、時間内にそれだけ遠くまで荷物を運べることになります。例えるなら、東京から広島まで80km/hでは10時間かかりますが、100km/hになれば同じ10時間で福岡まで足を伸ばすことができます。ほんのわずかのようですが、日々たくさんのトラックの航続可能距離が増えることで、物流量は相当改善されると予想できますね。
海外ではトラックと乗用車がスムーズに走れる仕組みが整っている
そもそも2024年問題は、数々の問題があると指摘されています。あくまで一時的にですが、ドライバーの給料が減り、物理コストが高まります。すでに大手の運送会社からは、輸送賃を値上げいてしますよね。デフレ脱却だと考えれば納得もできますが、国民の財布には厳しいです。運べなくなることは作れなくなることでもありますので、生産にも悪影響を及ぼします。最高速度引き上げは、そのための特効薬とされているのです。検討会が立ち上がったばかりですが、近い将来に実施されるのでしょう。
僕は頻繁に高速道路を利用していますが、80km/hで走行するドライバーが交通の妨げになる経験を頻繁にしています。トラックには90km/hで作動する速度リミッターが組み込まれているため、それ以上速度を上げることができない。ですが、追い越し車線をゆるゆると走行する。トラックドライバーにも言い分はあるのでしょうが、100km/hの普通車と80km/hのトラックが混在することのデメリットは少なくありません。
たとえば交通システムが発達しているドイツのように、トラック車線があるのならばいいのでしょうが、日本では法規的にもマナー的にも成立していないのです。その意味だけで言うならば、トラックの100km/hは歓迎すべきことなのかもしれません。
それにしても、かねてから期待されていたトラックの最高速度引き上げに関して、安全性についてのコメントがないのが気になりますね。ドライバー不足という理由だけで最高速度が緩和されるのであれば、すでに緩和されていても不思議でありません。政府とはそういう体質なのでしょう。
ともあれ、2024年問題が緩和され、安全が確保されることを祈りたいものですね。
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