フィオラヴァンティ最盛期のピニンファリーナによる出色のデザイン
じつは筆者がまだ学生だったころ、人生初めての愛車としてフィアットX1/9を手に入れた。そして当時から、その上級モデルであるベータ モンテカルロ/モンテカルロは憧れの存在。いつかは乗ってみたいと熱望していながらも、これまで実物に触れる機会もないまま長い年月が経過してしまった。
それゆえ、念願がかなっての初ドライブを前にして、35年分の憧れが大きな期待感となって膨らんでいたのだが、実際にステアリングを握ったモンテカルロは、積年の想いを再認識させてくれるには充分以上。素晴らしいミッドシップスポーツであった。
この日の取材にご提供いただいた1983年型モンテカルロは、ビニール製のソフトトップをロールバー状としたルーフ後端に巧みに畳み込むことのできる「スパイダー」バージョン。現オーナーが自らの手で細かいチューニングを施している真っ最中の1台である。
しかし、こうしてまじまじと見てみると、なんて美しいクルマだろう……! と感心させられてしまう。あくまで私見ながら、フィオラヴァンティ最盛期のピニンファリーナが手がけた傑作の中でも、出色のデザインと断言したくなる。
いっぽう、シンプルを究めたインストゥルメントパネルをはじめとする、モダンなインテリアデザインも秀逸至極。エルメネジルド・ゼニア社製のザックリと柔らかい表皮に包まれたシートはとても座り心地良く、スパルタンな印象はまるでない。
意外なほど素晴らしいバランスのミッドシップスポーツカー
そして、直列4気筒DOHC「ランプレーディ」ユニットに火を入れる、念願の瞬間がついに訪れた。すでにオーナーが暖気してくださっていたエンジンは、キャブレターを2基のツインチョーク・ウェーバーに換装されていようとも、まるで愚図ることなく一発始動。ただ、まだオーナーご自身の手によるチューニングの途上でマフラーも抜け気味とのことで、かなり盛大なサウンドを放出する。そのせいかレスポンスや吹け上がり、トルクの盛り上がりについては、まだまだ調整が必要とのことだった。
それでも、ソフトトップを畳んだ青天井の状態で、ウェーバーキャブの豪放磊落な吸気音と、短いマフラーから発せられる排気音に身を委ねつつ走らせる行為は、快感という以外の何ものでもない。
しかし、このクルマで最も注目すべきは、やはりミッドシップスポーツカーの要であるシャシーであろう。ボディ剛性が金科玉条となる以前のイタリア車、しかもセミオープン車でありながら、車体はかなり強固な印象。ベータ譲りとなる、ストロークの深い前後マクファーソンストラット式サスペンションをうまく支え、じつに巧みな調律が施されている。だから、箱根峠旧道の荒れた路面でも乗り心地に優れ、バンプで姿勢を乱すようなこともない。
また、ミッドシップの長所である低さと軽いノーズを最大限に生かし、ハンドリングも軽快なもの。弱めのアンダーステアで気持ちよくノーズを向け、後輪のトラクションを生かしてグイッと美しい弧を描いてカーブを駆け抜ける。
そして、ノンパワーのステアリングはさほどクイックではないものの、取り付け部の剛性も感じられてかなり正確。だからコンパクトなボディサイズも相まって、曲率やスピードレンジを問わず、あらゆるカーブに安心して飛び込んで行けるのだ。
あらゆる面でバランスに優れたランチア・モンテカルロは、意外なほどに良くできた、じつは傑作であることがよく理解できた。くわえて、037ラリーという自動車ラリー史上屈指の名作のベースとされた理由も、この初ドライブを経てはっきり感じられたのである。
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