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フェラーリ「納屋物件」VS「改造車」を制するのは?「512BB」はやっぱり憧れのザ・スーパーカーでした

今回のモントレーオークションには2台のフェラーリ512BBが出品された

12気筒のクラシックフェラーリの威光が薄れていない

さる2023817〜19日にRMサザビーズ北米本社がカリフォルニア州モントレー市内で開催した「Monterey 2023」では、バーンファインドされたクラシックフェラーリによる特別企画「Lost & Found Collection」が話題を呼んだ。しかし、そのコレクション以外にもフェラーリの出品は数多く見られたのだが、今回はその中から、図らずも「バーンファインドvs実動車」対決の図式となった、2台のフェラーリ「512BB」についてお話しすることにしよう。

ちょっと現実的になったフェラーリBBとは?

1973年から生産に移された元祖「ベルリネッタ・ボクサー」こと、「365GT4/BB」とともにミドシップ12気筒ストラダーレの製作に進出したフェラーリ。しかし、じつは365BB時代は実験的要素も多かったことから、当初から数多くの技術的問題点を抱えていたという。そこでマラネッロでは、一定数のシリーズ生産を期した進化モデルの開発が、比較的早い時期から進められていたといわれている。

そして1976年に正式発表された「512BB」は、運転席・助手席のすぐ後方に搭載されたボクサー12気筒エンジン。あるいはピニンファリーナのデザインよるダイナミックなボディなど、365GT4/BBの技術的、あるいはスタイリングの特徴を受け継ぐいっぽうで、細部は大幅な進化を遂げている。

そのネーミングは、1960年代末からスポーツカーレースを闘ったフェラーリの512レースカーへのオマージュであるとともに、エンジンがスープアップされたことを示唆していた。

512BBの強力な180度V型12気筒エンジンは、排気量を365BB時代の4.4Lから5L(4943cc)に拡大。4基のトリプルチョーク式ウェーバー社製キャブレターが、拡大されたエンジンに燃料を供給した。

いっぽうボディワークでは、フロントにエアダムスカートが設けられたほか、ボディサイドにはNACAスクープを追加。テール側のオーバーハングも延長された。また、テールエンドに置かれる丸形テールランプは365BBの左右3灯ずつから2灯ずつに変更。スタンダードのマフラーも左右3本出しから2本出しに換えられ、若干ながらエキセントリックな印象が薄められた。

これらのモディファイは北米への輸出を見越してのものとも言われていたが、実際には512BBがアメリカ合衆国およびカナダに正規輸出されることはなかった。これはエンツォ・フェラーリ翁が厳しい北米の排出ガス規制に適応させるために、自身の美意識に沿わない改良を施すことを拒んだから、とも言われているようだ。

ただ、スポーツカーの世界最大市場であるアメリカへの導入は無くとも、生産台数は365BB時代の2倍以上に相当する929台に及んだとのことである。

30年以上にわたって秘匿された512BB

今回の「Monterey 2023」オークションに出品されたフェラーリ512BBは、いずれも「グレーマーケット」による並行輸入でアメリカの地を踏んだ個体である。

まず「Lost & Found Collection」から出品された赤/黒2トーンの512 BBは、1980年4月に製造されたシャシーナンバー#3135。「トレンド・インポート・セールス」社を通じて米国に輸入されたのち複数のオーナーを渡り歩き、1996年10月にウォルター・メドリンが購入したのだが、彼のコレクションの多くがそうであったように、その後は30年以上にわたって秘匿されることになった。

この個体はヴィタローニ社製のサイドミラーに、ボラーニ社製スピナーつきのクロモドラ社製センターロック式アロイホイールという、もっとも典型的な512BBスタイルが残されている。また、インテリアはブラックの革張りダッシュパネル、ブラックの「デイトナ」スタイルインサートが施されたベージュの本革シートにベージュのカーペット、モモの革巻きステアリングホイール、パワーウィンドウ、エアコン、日本のヤマハ製ラジオユニットを装備する。

ただし、エンジンは純正の交換用ユニットに換装されたうえに、MSDイグニッションシステムとアフターマーケットのイグニッション・コイルで改造されているのだが、トランスミッションはマッチングナンバーのままで残されている。

オークション公式カタログの作成時点で、オドメーターが表示するのは4万4434kmという少なめのマイレージながら、長年静態保管されていたことから、現在では事実上の不動状態。したがって、この512BBを走らせるにはしかるべきレストアが必要となる。

オーナー好みにドレスアップされた512BB

いっぽう「ロッソ・キアーロ(明るい赤)」単色にペイントされたほうの512BBは、1979年に製作されたシャシーナンバー#27117。コネチカット州グリニッジのレジェンド的ディーラー、ルイジ・キネッティの仲介により、のちに生涯を通じて所有することになるファーストオーナーの手に渡った。

後継の512BBiではデフォルトとなる単色のボディカラーは、512BB時代では少数派。しかし、北米フェラーリ界では権威として知られていた初代オーナーは、購入後も工場出荷時のロッソ・キアーロの外装色を維持していた。ただ、1985年ごろにカリフォルニア州のインテリア専門業者に依頼し、赤く染めたヘッドライナー、赤いカーペット、赤いドアパネル、黒いレザーシートに赤いパイピングを組み合わせるなどのドレスアップを施している。

またMOMO社製「プロトティーポ」ステアリングホイールと、純正エアクリーナーの代わりにウェーバー製キャブレターの上に設置された12連のエアファンネルが、ル・マンなどのモータースポーツにインスパイアされたレーシーな雰囲気を獲得しているものの、根本的に改造車であることに変わりはない。

初代オーナーは2021年に没するまで512BBを所有し続け、その直後に、2代目オーナーの所有する大規模なコレクションにくわえられた。そして歴代でただ2名のオーナーは、ともにこの512BBをとても大切に扱ってきたようだ。日常的なメンテナンスを受けていたのは当然ながら、2013年から2014年にかけて発行された請求書によると、燃料系統と冷却系統の整備、エンジンを降ろした大規模サービス、キャブレターのクリーニングと調整が行われている。

また2022年10月には、再びエンジンを降ろして整備。この時に定番のタイミングベルトやシール、ガスケットの交換のほか、ウォーターポンプ、クラッチスリーブシリンダー、スロットルケーブルなどの補助部品が、必要に応じてリビルトまたは交換されたという。

レストアベースでも改造車でも、V12フェラーリの威光は健在か?

そして注目の落札結果だが、「Lost & Found Collection」から出品された赤/黒の1980年型512 BBは、10万ドル~20万ドルに設定されたエスティメート(推定落札価格)に対して15万1200ドル。日本円に換算すると約2200万円で小槌が落とされた。そのかたわら、ロッソ・キアーロ単色の1979年型512BBは、25万ドル~30万ドルというエスティメートに一歩届かない24万800ドル。つまり、約3520万円での落札となった。

オリジナリティの高さがマーケット価格に直結する現在のクラシックカー界において、たとえば「フェラーリ・クラシケ」を取得するには妨げとなるような改造が施された後者の評価が、いささか低めとなるのはやむを得ない。

いっぽう、いくらオリジナリティが高いとはいえ、やはりレストアには相当な期間と費用を要するバーンファインド車両もまた、低めの評価を受けるのも然りである。

それでも約2200万円と約3520万円という落札価格がつくのは、やはり12気筒のクラシックフェラーリの威光が薄れていないことを証明している……、とも考えられるのだ。

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