アメジストの原石から着想
ロールス・ロイスは特定の顧客向けに特注された世界4台限りの新たなコーチビルドモデル「ドロップテール」のうちのひとつ、「アメジスト ドロップテール」を発表した。依頼主のご子息の誕生石であるアメジストからインスピレーションを受け、車両全体の細部に至るまでこだわり抜いた、究極を極めた1台となっている。ロールス・ロイスが依頼主とともに作り上げた、遊び心をもった丹念な傑作を見ていこう。
エクステリアは砂漠に咲く花を表現
依頼主の故郷の砂漠に咲く野草「グローブ・アマランサス」をイメージしたエクステリアは、花が咲くまでの段階を細やかに表現している。メインのボディカラーは、繊細なシルバーを基調とした柔らかなパープルで、光を反射するアルミニウム粉末の薄片によって一層際立ち、魅惑的な玉虫色となった。車両上部のコーチワークに使われ、コントラストを生む深いパープルのアメジスト・ペイントには、複数のマイカ・フレークをブレンドし、繊細なメタリックの光沢を放つ独特なモーヴカラーを作り出している。
太陽光の下では、22インチホイールの内側にモーヴカラーのペイントがかすかに現れ、鏡面仕上げのアルミニウムのサーフェスと繊細で上品な対比を成している。これは、依頼主お気に入りのビスポークのジャケットの色鮮やかな裏地のタッチを参考にしたとのこと。
フロントエンドを引き締めるのは、アメジストのカボションに囲まれたスピリット・オブ・エクスタシーのフィギュアだ。目立つ輝きを抑えるために、丸みを帯びたフォルムに成形し磨き上げるカボションカットを採用している。
R-R史上最大のウッド・サーフェス・エリア
アメジスト ドロップテールのために、ロールス・ロイスは史上最大のウッド・サーフェス・エリアを製作し、木材がフェイシアやドアから、ショール・パネル、「台座」センター・アームレスト、そして後部のデッキにまで及んでいる。
車外の空気にさらされる後部デッキの木材については、エアロダイナミクスと木材のそれぞれのスペシャリストが緊密に連携して実験を重ねた。その結果、芸術的な作品の完成と同時に、走行中のクルマにダウンフォースをもたらす、世界で唯一の「原木」サーフェスが誕生したのだった。
原木の質感を強調するためにまったく新しい化粧張り工程が特別開発された。互いを映し出すように木板を55度の角度で配置する「ブックマッチング」と、木板を順番に並べる「スリップマッチング」という2つの技法を組み合わせることにより、木目模様が繰り返されて一枚板のように見える、より有機的で自然な効果が得られている。
世界中のさまざまな気候環境で運転できるように、インテリアの木製部分もエクステリアのパーツと同じ厳しい耐久基準を満たすようにテストされ、最終的な完成までには、150以上のサンプルを使って、8000時間を超える実験を行ったとのことだ。
遊び心を持った丹念な傑作
取り外し可能なハードトップは、ドロップテールに2つの異なる個性を与えている。ルーフを開けると、しなやかなオープントップのロードスター。ルーフを取り付けると、ドラマチックなクーペに変身する。
ルーフにはエレクトロクロミック・ガラスが組み込まれ、瞬時に表面の色や透明度を変化させることが可能だ。アメジスト ドロップテールの色調に合わせるために、作動していないときには、ほのかに淡いパープルがかかった完全な不透明ガラスになり、車両エクステリアのアメジスト・フィニッシュを映し出す。ボタンを押して作動させるとガラスは半透明になり、インテリア・スイートに使われたサンド・デューンのレザーのカラーに調和する色合いになる。この類まれな華やかさを実現するために、スペシャリストは完璧にマッチするガラスを見つけるまで、60回ものガラス着色を繰り返したという。
フェイシアには、スイスの有名な高級時計メゾン、ヴァシュロン・コンスタンタンにオーダーした唯一無二のタイムピース「レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨン」が飾られ、時分針が瞬時に戻るバイ・レトログラード表示およびバイ・アクシアル・トゥールビヨンを装備。
インストゥルメント・ダイヤルは、アメジスト・カラーのインサートと、部分的にブラッシングとポリッシュの仕上げが施された時計針を兼ね備えている。このタイムピースは、ホワイトゴールドのベースプレートに手作業によるサンバースト・ギヨシェが施されている。
このドロップテールモデルの徹底した作りこみは依頼主のディテールへの情熱の証であり、また遊び心を持った丹念な傑作として、歴史的に偉大なロールス・ロイス車の列に加わることとなる。また、このような明確なビジョンを実現するのみならず、伝統と現代性、そして魂を見事に調和させるロールス・ロイスのポテンシャルの高さを象徴しているのが、アメジスト ドロップテールなのだ。