カンザス州の南東のごく一部をかすめて30分のドライブ
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内。シカゴを出発して西に向かい、イリノイ州からミズーリ州へ。そしてオクラホマ州へと向かう途中のカンザス州は、端っこを少しかすめるだけ、クルマで30分程度の短区間です。
短いからこそルート66を誇りにしている
ミズーリ州の南西端に位置するジョプリンを抜けると、ルート66は東から数えて3番目のカンザス州に入る。全部で8つの州にまたがるルート66だが、カンザス州は13マイル(約21km)しかなく、オクラホマとの州境まで走っても30分ほど。改めて地図を見るとカンザス州の南東、ごく一部をかすめているにすぎない。そんなにわずかな距離ながらも、いや、短いからこそルート66を誇りにしており、史跡の保存や標識の整備に力を入れている。
最初に通過する街は人口3000弱のガリーナ。鉱山の開発により1900年代は大いに栄えたらしいが、閉山されると衰退の一途を辿り人口減少率はなんと70%。昔の様子をせめて写真で見てみたいと思い、中心部のミュージアムをいつも訪れるが、タイミングが悪く休館のときばかりだ。
個人的なお気に入りはミュージアムから少し東、サウス・メイン・ストリートの空き家に描かれた壁画。色褪せたペプシとマウンテン・デューのロゴ、そしてシンプルで小さなルート66のサインは、不思議と走るたびに引き寄せられ撮影してしまう。
100年前の小さな「レインボー・ブリッジ」は国家歴史登録財
次の外せないスポットはバクスター・スプリングス郊外にある、1923年とちょうど100年前に建造されたコンクリート橋、通称レインボー・ブリッジことマーシュ・カーヴ・ブリッジだ。虹をイメージさせる弧を描いた小さな橋で、設計者はジェームス・バーニー・マーシュ。1983年には国家歴史登録財に指定され、定期的に路面の補修やアーチの塗装が行われている。
なお橋は東から西への一方通行となっており、すぐ隣には現在のルート66が通っているため、交通量が皆無に近く撮影しやすいロケーション。名前は忘れたがカントリー系のミュージシャンが、この上で『ルート66』を演奏するMVを見たことがある(編集部注:おそらくプラッド・ペイズリー)。ほとんどのクルマは横のルート66を通るので、道路を占有する許可が取りやすいのだろう。
カンザスで「フィールド・オブ・ドリームス」を実現した男
バクスター・スプリングスでは別のいい思い出がある。初めてルート66の全線走破にチャレンジしたとき、「フィールド・オブ・ドリームス」なる看板が目に入った。ケビン・コスナーが主演した同名の映画は観たことがあり、記憶が正しければ舞台はアイオワ州の片田舎だったはず。
戸惑いながらも駐車場にクルマを停めると、人懐っこそうな笑顔の男性が声をかけてくる。当時の英語力ではオーナーなのか管理を任されている人なのか分からなかったが、ともかく「カギを開けるから中も見ていきなよ」と嬉しい言葉をかけていただいた。後で調べたら地元の高校野球で監督をしている方が、自宅の敷地に私財を投じて建設した球場なんだとか。映画に負けず劣らず素晴らしく夢のある話、まさにフィールド・オブ・ドリームスだ。お礼を言いたくてその後も必ず立ち寄っているが、彼と一度も再会できていないのが何とも歯がゆい。
ビジターセンターも美しく整備されている
バクスター・スプリングスの中心部には、カンザス州のルート66ビジターセンターもある。元は1930年に作られたガスステーションで、屋外には美しくレストアした給油機も。オープンしているのは3~11月で運営はすべてボランティア、すぐ近くにあるヘリテージセンターの案内所も兼ねている。
規模は大きくないものの施設は手入れが非常に行き届いており、スタッフのみなさんも超が付くほどのフレンドリーさだ。カンザス州のルート66はわずか21kmという短さだが、誇りと愛着が彼らの一挙手一投足から強く感じられる。
余談だが次にルート66を全線走破するときは、ぜひともカンザス州で一夜を明かしてみたい。実現すればルート66全州で宿泊したことになるのだが、どうも通過するのが昼間ばかりでいまだに未達成のままだ。
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