街乗りではなかなかハードな乗り心地
実際、296GTSアセット・フィオラノを1000kmほど試してみての感想はというと、街乗りが中心ならこの脚は強すぎるというものだった。せっかくGTSでルーフの力みが取れ、おそらくはこれまでのV8モデルスパイダーと同様、肩の力を抜いたような乗り心地になっているはず、なのに、それでも少し硬く感じてしまった。
高速域やワインディングロードを攻めている時にはまるで気にならないのに、下界の、それも荒れ気味の舗装面などではてきめんゴツゴツ感も増す。もっともGTBではそれがもっと強く感じられたので、オープン状態のGTSなら少しはマシと言えるのかもしれない。リバリーの選択も含め、実際にオーダーしたカスタマーにとって、そのチョイスが悩ましいところだ。サーキットへちょいちょい出向いて走るというなら躊躇うことなくアセット・フィオラノを選ぶべきだけれど、そういう人はGTBを選択するだろうし。
ルーフを閉じて走る感覚はGTBのそれとほとんど変わらない。ルーフの電動開閉システムに加えて前後ピラーやサイドシルなどに補強が入ったため、70kgの重量増となったが、言ってみれば1人乗りと2人乗りの違い程度。もとより800psオーバーのスーパーカーだ。普段乗りでその違いを感じるなどということは、乗り心地の若干の変化以外、まずもってない。高速域では超優秀なクルージングマシンであり、8速入れっぱなしの加減速でも十分に120km/h高速道路の流れをリードすることができる。
官能的なV6サウンドも堪能できる
背後で規則正しく唸るV6サウンドも長い距離のドライブを“前向き”にしてくれる。まるでドライバーへの声援、後押ししてくれるかのようだ。退屈だなと思えばリアの垂直なウインドウを下げてやれば、控えめないななきが室内へと入ってくる。さらにギアを2、3段下げてから加速すれば、眠気などすぐに吹き飛ぶ。WETモードにさえ入れておけば、前脚が十分に落ち着いて、快適なドライブを延々に続けていけそうな気分になった。
もちろん296GTSの真骨頂はワインディングロードを舞台にルーフを開放してのスポーツモードで発揮される。V6サウンドのシャワーを浴びながら、PHEVながら違和感のない減速と正確無比なハンドリングを楽しみつつ、驚くべき加速でコーナーを仕上げていく。その繰り返しにクルマ好きはもはや恍惚となるほかない。
そんな第一級のスポーツカーが街中では静かに、かえって街ゆく人が驚くほど穏やかに走り抜けるのだから、これほど気分のいいことはない。昔は静かなフェラーリなど想像もできなかった。けれども、想像もできなかったことを実現すれば人間という生き物は嬉しくなるものらしい。あまりに静かすぎてこちらに気づいてくれないこともあって、ちょっと恨めしいけれど。
ちなみに充電のできない場所にしばらく車両を放置するときには、事前(到着半時間前位から)リチャージモードを使ってバッテリーに電気をある程度入れておくことをオススメする。