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フェラーリの新機軸「296」を1000キロ試乗!「アセット・フィオラノ」のオープンモデルの楽しみ方をお教えします

今や主力モデルはプラグインハイブリッド・スーパーカー

フェラーリの主力モデルとなるV6ツインターボ+電気モーターのミッドシップモデルである「296」シリーズに、オープンモデルである「296GTS」が加わりました。今回はそのアセット・フィオラノ仕様を長距離試乗しました。オープン、そしてアセット・フィオラノ仕様の乗り味は……。

時速135キロまでは電動走行で“静か”

マラネッロの主力モデルといえば今やV6ツインターボ+電気モーターのミッドシップモデル、296シリーズだ。V6の理想である120度のVバンク角をもつ3Lエンジンを新規に開発。これに8速DCTと高出力モーター、リチウムイオンバッテリーを加えた新世代のプラグインハイブリッド・スーパーカーだ。

PHEVということで満充電時には最大25km(実質的には20km前後)のドライブを電気で賄う。135km/hまで電動走行できるから、都心に住んでいれば早朝の住宅街を出発し最寄りのインターから首都高に入って東名高速に差し掛かるくらいまでは十分“静か”に走っていられる。これが嬉しい。エンジンがかかってもそのV6サウンドは官能的だが上品だ。もはやバリバリ響く爆音は一部の偏執的なマニアにしか好まれていないと、エンジンサウンド好きは認識しておかなければならない。

筆者はすでに296GTBの試乗を何度となく行っている。スペインでの初乗り国際試乗会でサーキットも含め300kmほど、日本でも東京~京都1000kmドライブを敢行、さらには先だってマラネッロ本社からル・マンまで1200kmほど走破した。総計で2500km以上。オーナーを除けば最も長い距離を296で走った日本人だと自負している。

スパイダーのGTSはクーペのGTBとはリアデザインも違う

そんな296シリーズに待望のスパイダー(オープン)モデル、GTSが加わった。電動格納式RHT(リトラクタブルハードトップ)方式で、これまでのV8ミッドシップモデルと同様のシステムを持つ。GTB(クーペ)に比べてリアのエンジンリッドまわりのデザインが大幅に変更されているのが特徴だ。

同時にフロントウインドウからルーフのデザインもまるで違っている。それゆえ全体の印象も随分と異なって見えた。GTBではウインドウ上辺が直線的にカットされていたがGTSでは曲線を描く。GTSにはふくよかなリアフェンダーとよく調和するクラシックな美しさが備わったし、GTBは逆にモダンなフロントノーズとの対比が素晴らしい。筆者は断然、GTSの方が好みだけれど。RHTの開閉に要する時間はたったの14秒で、45km/h以下であれば走行中の操作もできる(それ以上の速度では雨が室内に降り注ぐなんて事態にならない)から天候の急変にも慌てなくていい。

いつものように都内で借り出した296GTSは、アセット・フィオラノという人気のパッケージオプション仕様で、赤に水色のストライプというクラシックなリバリーが映える個体だった(ちょっと派手だけれど)。アセット・フィオラノとはサーキット走行を嗜むための仕様で、ハードな走行用に調整されたアジャスタブル・マルチマチック・ダンパーや各種軽量パーツ、エアロデバイスの追加などを含む。「250LM」イメージの2トーンカラーもこの仕様であれば選べるので、サーキットを目指すわけではないカスタマーでもオーダーする人が多い。ただし、乗り味は少々ハードだ。

街乗りではなかなかハードな乗り心地

実際、296GTSアセット・フィオラノを1000kmほど試してみての感想はというと、街乗りが中心ならこの脚は強すぎるというものだった。せっかくGTSでルーフの力みが取れ、おそらくはこれまでのV8モデルスパイダーと同様、肩の力を抜いたような乗り心地になっているはず、なのに、それでも少し硬く感じてしまった。

高速域やワインディングロードを攻めている時にはまるで気にならないのに、下界の、それも荒れ気味の舗装面などではてきめんゴツゴツ感も増す。もっともGTBではそれがもっと強く感じられたので、オープン状態のGTSなら少しはマシと言えるのかもしれない。リバリーの選択も含め、実際にオーダーしたカスタマーにとって、そのチョイスが悩ましいところだ。サーキットへちょいちょい出向いて走るというなら躊躇うことなくアセット・フィオラノを選ぶべきだけれど、そういう人はGTBを選択するだろうし。

ルーフを閉じて走る感覚はGTBのそれとほとんど変わらない。ルーフの電動開閉システムに加えて前後ピラーやサイドシルなどに補強が入ったため、70kgの重量増となったが、言ってみれば1人乗りと2人乗りの違い程度。もとより800psオーバーのスーパーカーだ。普段乗りでその違いを感じるなどということは、乗り心地の若干の変化以外、まずもってない。高速域では超優秀なクルージングマシンであり、8速入れっぱなしの加減速でも十分に120km/h高速道路の流れをリードすることができる。

官能的なV6サウンドも堪能できる

背後で規則正しく唸るV6サウンドも長い距離のドライブを“前向き”にしてくれる。まるでドライバーへの声援、後押ししてくれるかのようだ。退屈だなと思えばリアの垂直なウインドウを下げてやれば、控えめないななきが室内へと入ってくる。さらにギアを2、3段下げてから加速すれば、眠気などすぐに吹き飛ぶ。WETモードにさえ入れておけば、前脚が十分に落ち着いて、快適なドライブを延々に続けていけそうな気分になった。

もちろん296GTSの真骨頂はワインディングロードを舞台にルーフを開放してのスポーツモードで発揮される。V6サウンドのシャワーを浴びながら、PHEVながら違和感のない減速と正確無比なハンドリングを楽しみつつ、驚くべき加速でコーナーを仕上げていく。その繰り返しにクルマ好きはもはや恍惚となるほかない。

そんな第一級のスポーツカーが街中では静かに、かえって街ゆく人が驚くほど穏やかに走り抜けるのだから、これほど気分のいいことはない。昔は静かなフェラーリなど想像もできなかった。けれども、想像もできなかったことを実現すれば人間という生き物は嬉しくなるものらしい。あまりに静かすぎてこちらに気づいてくれないこともあって、ちょっと恨めしいけれど。

ちなみに充電のできない場所にしばらく車両を放置するときには、事前(到着半時間前位から)リチャージモードを使ってバッテリーに電気をある程度入れておくことをオススメする。

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