ちょっとレトロで肩の力の抜けた「癒し“軽”」
人に言うと「エエッ!?」と不思議そうな顔をされることもあるのだが、筆者は男子(しかも現在は歳のいった)ではあるが、「ラパン」のようなクルマは結構、好みの範疇に入る。もしも取材先で「1台差し上げます、どうぞお乗りください」と言われたら、遠慮なく乗って帰ってくると思う。音楽でいえば、ハードロックというよりボサノヴァ。そういうクルマである。
スポーティさや高級感とは全く別のベクトル
初代「アルトラパン」がスズキから登場したのは2002年1月のことだった。前年10月に開催された第35回東京モーターショーで、ショーモデルとして出品された明るい緑と白のモデルがその原形だった。ただし車名はすでに「ラパン」(ウサギ=フランス語)となっていたほか、車名にちなんだウサギの顔を模ったエンブレムをフロントグリルに装着するなどしていた(ウサギの顔は市販車の車名ロゴの小文字の“i”の上の“・”の部分にも使われている)。またショーモデルのグリルやホイールキャップ、白い窓枠などショーアップ部分を差し引きながらつぶさに観察すれば、ほぼ量産型のカタチだったこともわかった。
そして量産型のアルトラパンだが、これはもう見るからに癒し軽(系)だった。冒頭にも書いた筆者の琴線に触れた(笑)国産車としては、日産「ラシーン」(1994年)、日産「パオ」(1989年)それからトヨタが作った「WiLL Vi」(2000年)などの系統といえばよいか。ラパン登場時、どこかの試乗記に「ラシーンなき後の貴重な癒し系」などと書いた覚えがある。
一般にクルマというと、スポーティさや高級感といった価値観が受け入れられやすいが、ラパンはそうではないベクトルで作られたクルマだった。
シンプルでセンスのいいインテリアも見どころ
実車は当時の6代目「アルト」がベース。2360mmのホイールベースも共通だ。が、ラパンを単体で眺めていると気づきにくかったが、全高はアルト5ドアの「エポ」が1450mmだったのに対して1505mm(2WD)/1515mm(4WD)と55mm以上高かった。この全高は街中の立体駐車場への入庫も可能としたサイズだ。しかもカタログでも「BOXパッケージ」とうたい「ロング&ワイドルーフに、ドアやガラスをほぼ垂直に立てた、BOX型の室内空間にしました」とあるように、じつは実質的にも広くゆったりとさせた室内設計だったのである。このため前席535mm、後席605mmと快適で高めのアップライトな着座位置をとりながら、実用車としてしっかりと通用するゆとりのある室内空間としていた。
ただし実用的なだけでなはく、センスにもこだわったのがラパンならではのところだった。とくにインパネはパネル面をサッパリとさせ、そこに丸型メーター、丸型エアベント、オーディオ、空調スイッチなどをシンプルにレイアウト(日産ラシーンもそうだった)。このインパネにはボディ色に合わせたオプションも用意された。
最新の「ワゴンRスマイル」の開発者にインタビューした際に同様のインパネについて「今のフィアット500風ですね?」と訊いたところ「参考にしました」とのことだったが、そんなセンスを初代ラパンは先取りしていたことになる。
一方でシートは一体成形の家のソファのようなデザインで、オレンジまたはブルーのシート表皮も、平たく言うとクルマクルマしていない洒落たものだった。2003年にはフロントベンチシート仕様も登場、2004年からはSS(後述)以外の全車の適用になっている。
プレーンだが洒落たルックスはカスタムのベース車にも
もちろん何といっても魅力だったのは、愛着が持てそう……と思わせられるスタイルだった。前述のとおりウインドウが立てられた箱形スタイルは直線基調ながらカドを丸めることで親しみが感じられたし、サイドウインドウを6ライトとしリアに小さなノッチがついている(筆者は往年の「スズライトフロンテ」を連想していた)あたりは、実質重視の営業車のアルトとは違う乗用車的な趣きを醸し出していた。
またプレーンだが洒落たルックスはそのまま乗ってももちろんよかったが、シンプルさゆえ、グリルを変えたり巷でのドレスアップの素材車としての引きあいも多かったようだ。なおボディ色はペールトーンを中心とした単色9色と2トーン3色を設定。ルーフを白の2トーンにした瞬間にクラシックミニに見えるのは避けられないが、ビジネス上の判断では今も昔もOKということなのだろう。
後期型では丸目やターボ搭載車も登場
また2003年9月には「SS」(=ストリート・スポーツ)が登場した。このモデルはターボエンジンを搭載、5速フロアシフトのMT車も選べるモデルで、フロントにはバケットシートを装備、メーターや外観前後に赤いSSのエンブレム(リアはチェッカーマークとの組み合わせ)を装着。ラパンの主役はあくまでも標準車ではあるとは思うが、若い男子ユーザーのみならず昭和クルマ好きオジサン・ホイホイ的なクルマでもあった。
また後期型では丸型ヘッドランプ装着車やフロントグリルのパターンを違えた仕様なども設定された。言ってみれば普通の、肩肘張らずに乗れるコンパクトカーだった。