MTであるがゆえ長く付き合える1台
ロータスの新世代2シーターミッドシップスポーツ「エミーラ」。トヨタ製V型6気筒エンジンを搭載したファーストエディションがついに日本に上陸しました。今回は、東京から京都まで長距離試乗したレポートをお届けします。筆者のホームともいえるワインディングロードを走り、スポーツカーとしての完成度の高さを実感することも。購入を検討されている方は必読です。
これまでのロータスになかった質感
中国ジーリー傘下となって一気に電動化路線を邁進するロータス。日本でもオーダー受付のはじまったBEV専用ボディを持つSUV「エレトレ」は、ブランドの歴史的転換となりそうだ。その前にちゃんと内燃機関を積んだスポーツカーも出しておこう、というわけでエミーラが登場したのだった。
今、ロータスは英国と中国という“2つの本社”があるようなもので、ジーリーがボルボのように上手くハンドリングできるのかどうか、スポーツカーファンならばロータス好きでなくとも目が離せない。
とはいえ英国側としてもハイパーカー級のBEVスポーツカー「エヴァイヤ」という狼煙をあげて再スタートを切っていた。「エミーラ」はそのデザインイメージを引き継いだ量産モデルであり、これまでの「エリーゼ」や「エキシージ」とは一線を画す存在だ。ズバリ、ターゲットはアンダー10万ドル(約1500万円)の2シータースポーツカーセグメント(ポルシェ「ケイマン」クラス)である。ケイマンの他、アルピーヌ「A110」や、少しサイズは大きいけれど価格的にマッチするシボレー「コルベット」が主なライバルとなる。
そんなこんなを頭に入れて、まずはローンチエディションでマニア垂涎の3ペダルミッションを積んだエミーラV型6気筒を都内で借り受け、いつものように一路、京都を目指した。
トヨタ製V型6気筒スーパーチャージャーを積んだ「エヴォーラ」を2シーターに仕立て直した、というサイズ感だけのイメージで走りはじめると、目に映る見栄え質感も含めた走りのモダンさに驚くことになる。
エヴォーラにはまだどこか少量生産車両の“悲哀”を感じた。エリーゼやエキシージくらい割り切ったモデルになると、それはかえってスパルタンさの現れとして評価できたのだが、「エヴォーラ」ではちょっとラグジュアリーに仕立てようとしたのが裏目に出たようだ。量産の工業製品としてどこか煮詰まっていない、プロトタイプのような雰囲気が如実に漂っていた。
エミーラはその点、これまでのロータスにはなかった、ディテールまで目の行き届いた見た目質感をものにしている。正直、「これがロータス?」と最初は驚いてしまったほど。昔からのロータスファン(マニアではないけれど)が言うのだから間違いない。インテリアにもしっかりお金をかけている。スパルタンさが残されているのはギアレバーの付け根のみ。それもあえて、の演出だ。
スーパーチャージャーならではのサウンド
トヨタ製を供給された、と聞くと実用一点張りエンジンを想像してしまうが、ロータスにとってはすでに使い慣れ親しんだユニットだけあって、ドライブした印象から“トヨタ”が匂い立つことはない。ロータスは自社製エンジンを作ったこともあるけれど、歴史的には他社製エンジンを好きなように調律して使いこなすことが上手かった。官能性もほどほどあって、何より十二分に力強い。マニュアルとの相性も決して悪くない。
小気味のいいミッションフィールを楽しみつつ、乗り心地の良さにも目を見張りながら、高速道路に入った。エヴォーラと同じロングホイールベース、そしてワイドトラック化が効いているのだろう。しっとりした手応えと安定した直進性を手に入れた。これまたロータスらしくないといえばそうかもしれない。前フェンダーの峰がはっきり見えるから視線と走行車線の関係が安定し、真っ直ぐ走らせやすいのだ。なにしろ1990年代以降のロータスでは、たとえ+2モデルであってもロングドライブに出かけたいなどと、思ったこともなかったのだから!
6速入れっぱなしで高速道路上はほとんど事が足りた。この辺り、さすがに実用エンジンというべきフレキシビリティの高さだ。それでいて適切な段から1つ落として右足を踏み込めば、過給器付きながら大排気量エンジンのような加速をみせる。スーパーチャージャー付きゆえサウンドは独特。ドライバーの気分を盛り上げる音であることは間違いない。加速フィールにも危なっかしい感じはまるでなく、ライバルたちと比べても遜色のないGTだった。
無事に京都に着いてからは休む時間を惜しんで、ホームであるワインディングロードへとノーズを向けた。エリーゼやエキシージほどスポーツカーでないことは、京都までのドライブが安楽であったことがよく物語っている。それでもこれはロータスの2シーターカーだ。新しいスポーツカーの楽しみを見せてくれるに違いない。そんな期待を込めて山を目指した。
エンジンの一気呵成な盛り上がり方に比べて、実際の瞬発力にはやや欠ける。ギアレバーフィールにはハードなシーンでの節度感が物足りなく感じた。この辺りはアルピーヌやポルシェに軍配が上がる。けれどもそれ以外、特にハードなコーナリングシーンにおける絶大な信頼感などはさすがにロータス製スポーツカーだと感心した。どんなカーブでもシャシーの対応が万全である、といえば大袈裟だろうか。ドライバーの技量に関係なく、路面の状態を懐深く受け入れようとする姿勢は、このクルマのスポーツカーとしての完成度の高さをよく物語っていると言っていい。
手足の操作が必要ゆえ、減速からコーナリング、そして脱出と一連の操作が上手くいったときの爽快さは何物にも替え難い。これがなかなか難しいからなおさらだ。マニュアルであるがゆえ、長く付き合えそうな1台だと思った。