魅力的なライトウェイト・スポーツカーたち
この2023年夏に訪れたフランスやドイツの自動車博物館では、多くのF1GPマシンにスポットライトがあてられている傾向を紹介しましたが、もちろんそれだけではありません。「ブレッド&バター」と称される日常的なベーシックカーからスポーツカー、そして消防車を筆頭とする「働くクルマ」まで、じつにさまざまなクルマと出会ってきたのです。その中で個人的に気になったクルマが、ライトウェイトのスポーツカーでした。もちろん、オーバー4LのV12の魅力も分からないではないのですが、あまりにもリアリティがない(あくまでも個人的な感覚ですが)スーパースポーツよりも、小さな排気量のエンジンを少しだけチューニングし、コンパクトなボディに搭載する……。そんな日常的なスポーツカーに興味を持って多くの自動車博物館を巡ってきました。まず今回はフランスの博物館で出会ったライトウェイトなスポーツカーを紹介します。
イギリス製も含めて手作りのスポーツカーが続々
フランス取材行の前半は、ルノー「クリオ」(国内名は「ルーテシア」)での快適なドライブでしたが、じつはシャルル・ド・ゴール空港が大混雑で、予定したより入国に遥かに時間がかかってしまい、当初のスケジュールを急遽組み替えて慌ただしいスタートに。そして予定通り3日目に、今回初めて訪れるAUTO SPORT博物館を訪ね、初日に予定していたランス自動車博物館は4日目に訪ねることになりました。
そんなAUTO SPORT博物館で出会ったライトウェイトなスポーツカーが「ファルコン・シェル」と「バークレイ」でした。前者はオースチン「セブン」のコンポーネントを使うキットカーで同車のシャシーに、やはり同車の750ccエンジンを搭載。そこにオープン2シーターのボディを架装していますが、ジャガー「Dタイプ」に似たフロントビューが大きな特徴で魅力のひとつともなっています。
一方のバークレイは免許制度や販売価格などの優遇を受けた前2輪を駆動する3ホイーラーで328ccの2ストローク、空冷2気筒エンジンを搭載。「T60/4」は2座のT60をベースにホイールベースを伸ばすことなくシート後部のモールディング(ボディワーク)をアレンジすることで4座としたモデルです。ともにイギリスで生まれたクルマでライトウェイトに加えて安価という共通項も存在しています。ハイメカニズムなハイパワーエンジンを搭載することを必須とされた現代のスポーツカーとは一線を画していますが、とても魅力的に映った2台でした。
その翌日に訪れたランス自動車博物館は3度目の訪問となりましたが、以前に訪れたときとは一部の車両が入れ替わっていました。ここで出会った4台のうち「フルニエ-マルカディア」は初対面でしたが「ラドヴィッチ」と「C.G.」、「バウマン」は8年ぶりの再会。これが初対面となったフルニエ-マルカディアは、オリジナルのパイプフレームにルノー「8」のサスペンションを組み付け、ルノーの直4エンジンをミッドシップに搭載するキットカーで、驚くべきはベース仕様のルノーR8用1Lから、希望すればGr.4仕様のアルピーヌ「A110」用1.8Lまで広範囲なエンジンを選べたこと。スタイリングはガルウイングドアを採用した低くてスタイリッシュなものでした。
一方で8年ぶりに再会したラドヴィッチはワンオフで製作されたスペシャルで、プラットフォームとエンジンなど主要コンポーネントを残したプジョー「403」をベースに、4座のコンバーチブル・ボディを架装したもの。ちなみにフロントウインドウはメルセデス・ベンツ「190SL」用を、サイドウインドウはシトロエン「DS」用をそれぞれ転用して使用。エンジンはベースとなったプジョー403用の1.5L直4の58馬力仕様をそのまま使用しています。
同じく再会組のC.G.は以前にアルピーヌのボディ製作を担当していた、シャップ・フレール・エ・ジェサラン(Chappe Frères et Gessalin)がメーカーとして名乗りを挙げた記念すべき1台。C.G.1000の後継発展モデルで、リアエンジンのシムカ「1200」のフロアパンにFRP製で2+2のクーペボディを架装したものです。
最後のバウマンは英国製のキットカー、マイダスをフランスで販売するプロジェクトで登場したものですが、マイダス自体はイギリスによくあるミニの主要コンポーネントを使用。フランスでバウマンのブランドが立ち上げられたものの、商品化する前にプロジェクトが頓挫してしまいました。コンパクトな前輪駆動で可愛いルックスが魅力です。
シトロエンやパナール、そしてルノーまで多彩なモデルがベース車に
フランス取材行の後半はルノー「カングー」で寄り道を続ける旅となりました。初日にルノー・クラシックスを取材し、2日目から博物館歴訪の旅が始まり、最初に訪れた博物館がマノワール自動車博物館でした。ここは11年ぶり2度目の訪問となりましたが、以前にフランスの自動車博物館で出会ったF1GPマシンを紹介した記事でも紹介したように、マノワール自動車博物館は大きくリニューアルしていたのです。
それでもロードカーに関しては新たに収蔵展示されたモデルはわずかで、従来から引き続いて収蔵されているモデルが多かったように見受けられました。気になったライトウェイトなスポーツカーも「マラソン」が初対面で、一方シトロエン「UMAP」と「ブリッソノー」、そして「リスパル」の3台は11年ぶりの再会です。
これが初対面となったマラソンは、パナールの「ディナX」や「ディナZ」をベースに製作され、マラソン・コルセアと呼ばれる2ドアクーペに加えてマラソン・パイレーツの名で2ドアロードスターも用意されていました。フラットツイン・エンジンはわずか850ccで最高出力も42馬力に過ぎませんでしたが、樹脂製の軽量ボディのおかげで680kgと軽量で快活なライトウェイト・スポーツカーに仕上がりました。
一方の再会組ですがシトロエンUMAPは、「みにくいアヒルの子」と揶揄されながらも大ヒット作となり、フランスの津々浦々まで埋め尽くしたシトロエン「2CV」がベースで、エンジンは、さまざまなフラットツインを選ぶことができます。何よりも美しいボディスタイルが大きな特徴で、まさに美しい白鳥へと昇華した1台です。
ブリッソノーはルノーやオペルのボディを製造していたカロッツェリアでした。具体的にはルノー「カラベル」や、後にはオペル「1900GT」なども生産しています。そんなブリッソノーですが、自らも自動車メーカーになろうと製作したモデルがこのカブリオレ。ルノー「4CV」のメカニズム部分はそのままに、オリジナルのボディを架装したもの。やはりベースモデルよりも格段に格好良くなっているのは間違いないところ。
最後の1台、リスパルはブリッソノーと同じくルノー4CVがベースです。ただしロードモデルとしてではなくル・マン24時間レースに参戦するための競技車両として開発された点に独自性が窺えます。残念ながらレギュレーションの変更によって開発者のレイモン・リスパルがモチベーションを失い、ル・マン用のマシンに換えてレーシング・フォーミュラの開発にかじを切ってしまったのは残念でした。
このように彼の地では、ベーシックなロードカーをベースにしたスポーツカーが数多く誕生していたことが実感できました。多くのメーカーが電動化にかじを切っているようですが、今は現行車両のエンジンなど、コンポーネントを使ったライトウェイトなスポーツカーが誕生する最後の機会なのかもしれません。