NSX認定整備士がメンテナンスをしていたクルマ
2023年8月17日〜19日、RMサザビーズがアメリカモントレーで開催したオークションにおいてアキュラ「NSX-T」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
2005年式の北米仕様「NSX-T」は希少!?
初代のホンダ「NSX」、NA1/2型についてはみなさんよくご存知だと思う。「レジェンド」に搭載されていたC27A型SOHCエンジンをベースに、排気量を拡大しカムまわりはDOHC VTEC化。NSXのために開発されたC30A型を、オールアルミボディの運転席後方、ミッドシップマウントとしたそのスタイルは、昭和世代が子どものころに憧れたスーパーカーそのものである。
ところが乗ってみると、たとえば同世代のフェラーリ「348」と比べたとき、巡航速度が遅い街中ではまったく気を遣わずに走ることができ、高速道路で横風を受けたときの不安感はまったくなく、峠道での楽しさは同等だった。
さらにいえば、メンテナンス性のよさや信頼性の高さはNSXに軍配が上がる。もっというとミッドシップレイアウトのクルマなのに、お飾りではないカーゴスペースも装備されている。アクセルを踏まなければ普通のクルマ、アクセルを踏むだけの腕を持った人が乗ればその実力は底知らず……いま思えば、運転スキルがそれほどでもなかったあのころではなく、多少はマシなクルマの動かしかたができるようになった今、新車コンディションの個体にしっかりと乗ってみたい、と思ってしまう。
そんな新車コンディションの個体が、RMサザビーズオークションに出品された。モデル名は「アキュラNSX-T」、つまり北米仕様車のNSXである。
この個体は1990年から2005年まで生産されたNSXの最終年、2005年に生産されたもの。この年の生産台数は249台しかない、その中の1台だ。NSXは当初、C30A型エンジンを搭載していたが、1997年2月にマイナーチェンジを受け、マニュアルトランスミッション搭載モデルのエンジンがC32A型3.2Lに変更されている。これがいわゆるII型、NA2のデビューとなる。さらに2001年12月にはヘッドライトが固定式となったことでIII型となり、2003年にはイモビライザーが標準装備された。この個体はまさにそのIII型というわけだ。
18年間定期的にメンテナンスを行っている
ロングビーチブルーパールのボディカラーと、オニキスレザーインテリアの個体を購入したオーナーは、つねに最良の状態で保管を続けようと考えていた。保管場所は空調管理されたガレージでおこない、定期メンテナンスはペンシルバニア州エアマスにある、リーハイ・バレー・アキュラと、同じくペンシルバニア州レディングにある、ピアッツァ・アキュラで受けていた。もちろん新車時からこれまでのメンテナンス履歴はすべて残っているが、最新の履歴は2022年10月、NSX認定整備士が常駐しているピアッツァ・アキュラで受けたものとなっている。
そのときの作業は、タイミングベルトとウォーターポンプの交換やカムシール/クランクシールの交換、バッテリー交換、フルード交換などで、総額で4500ドル(約65万円)をかけている。ところがこの作業は、あくまで予防措置としておこなわれたもの。
じつはこの個体、これまでの実走行距離が5113マイル(約8200km)でしかないのだ。こういう低走行車の場合、タイミングベルトやドライブベルトといった、回っていてあたり前のパーツの劣化は、よく動かしているクルマよりも早くなってしまう。そこでいつ動かしてもトラブルが起きないよう購入から18年間、定期的にこういったパーツを新品へと交換し続けてきているのだ。
そうやって手間と費用をかけていることもあって、この日本でいうところのワンオーナー車の状態は、新車時の状態を保っている。当然オークションでのエスティメート(推定落札価格)も高額で、22万5000ドル〜27万5000ドル(約3280万円〜4000万円)となっていた。
そして8月20日に開催されたオークションでのハンマープライスは、29万1000ドル(約4240万円)と、エスティメートを超えてきた。新車価格にこれまでのメンテナンス費用や保管費用を加えても、もしかしたらお釣りがくるであろう価格だが、おそらく落札した人は、同じようにしっかりと保管を続けるつもりなのだろう。
個人的には、こういう個体を手に入れて、いま走りを楽しみながらメンテナンスもしっかりおこなっていく、という楽しみかたをしたいものだが、それに見合う試算や収入がない以上、夢でしかないというのが残念だ。