今後50号車をサーキットで見るチャンスはある?
2023年8月17日〜19日、RMサザビーズがアメリカモントレーで開催したオークションにおいてポルシェ「935/19」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
生産台数は77台のみ
1970年代に、ポルシェが国際自動車連盟(FIA)の定めるグループ5規定(シルエットフォーミュラ)をクリアするために製作した「935」は、ポルシェのファンの間でも年代を問わず常に高い人気を博しているモデルだ。その最も大きな理由はエアロダイナミクスを意識して、911からダイナミックにその姿を変えたボディデザインと、強力なパワーユニットにほかならなかった。
そして2018年、ポルシェの創立70周年を記念して、カリフォルニアのラグナセカ・レースウェイで開催されたレンシュポルト・リユニオンで発表されたのが、ル・マン24時間レースを制し、またモータースポーツ界におけるポルシェの覇権を絶対的なものとした935への現代的なオマージュともいえる、「935/19」だった。
車名に添えられる19は、そのモデルイヤーが2019年式であることを意味しており、生産は77台の限定と発表された。ポルシェのいわゆるトップクライアントからのオーダーで、77台の生産枠が一瞬でソールドアウトとなってしまったのは、誰もが簡単に想像できるところである。
935/19のベースとされているのは、セカンド・ジェネレーションの991のトップモデルともいえる911GT2 RSクラブスポーツだ。ボディパネルのほとんどはカーボンファイバー製のコンポジットパーツに交換され、その一部はさらなる補強の機能も持ち合わせていた。スタイリングで特に印象的なのは、やはり流れるようなサイドビューで、それは単なる回顧主義ではなく現代の最先端ともいえるエアロダイナミクスを成立させるためのテクニックを用いた結果の造形だ。
FIAのレギュレーションに完全に準拠した935/19は溶接された一体型のロールケージやルーフのエスケープハッチ、電気式の消火システム、6点式セーフティハーネス、横方向にも調節が可能なレカロ製のラップアラウンド・レーシング・バケットシート等を装備する。
インテリアはカーボンファイバーとアルカンターラのコンビネーション。ステアリングホイールは半円形のクイックリリースマルチファンクションタイプだ。その背後には視認性に優れたデジタルメーターが備わる。
デリバリー後はパレードランを走行したのみ
今回の出品車は、ドアシルにフィットされたプレートに刻まれたナンバーからも証明されているとおり、77台の935/19のうち50番目に生産されたもの。生産当時8色が設定されていたボディカラーの中から、このガルフオイルのブルーを選択した前オーナーは、ポルシェのコレクターとして有名なトッド・ブルー氏で、氏はこの50号車のデリバリーを受けてから、ジョージア州のロードアトランタをわずか4ラップ、パレード走行したのみである。
次回のレンシュポルト・リユニオンにはこの935/19で、と考えた新オーナー予備軍も多かったのだろう。オークションはこちらも盛り上がりを見せ、最終的なハンマープライスは160万ドル(邦貨換算約2億3200万円)という数字に達した。はたしてこれから、この935/19の50号車をサーキットで見るチャンスはあるのか。それがぜひ現実となる日が来ることを期待したい。