エンジンの出力を使って駆動
クルマ好きから時おり耳にするスーチャーこと「スーパーチャージャー」。この装置が誕生したのは第二次世界大戦前のことで、元は飛行機が高高度を飛べるように開発されたものでした。航空技術からクルマに転用されたスーパーチャージャーは、日本でも昭和時代に導入されて、いちやく脚光を浴びることになりました。その歴史から新時代のターボチャージャーまで解説します。
最初に実用化されたのは航空機
技術の進歩というのは日々続いているもので、その多くは常識と基礎技術の積み重ねから生まれてくる。なんて小難しいことをいっても仕方がないのだけれど、実際、新しいアイデアが浮かんでもそのときには実現が不可能なことが多く、技術が徐々に積み上がっていってはじめて実用化できたケースがほとんどだ。
現代のクルマでは当たり前のように使われているターボチャージャーやスーパーチャージャーといった過給器も、元となった技術は第二次世界大戦前に生まれていて、最初に実用化されたのは航空機だった。
航空機というのはクルマとは違い、空を飛ぶ。当たり前のことだが、そこに問題があったのだ。エンジンの出力が低く空力解析もレベルが低かったころは、それほど高いところを飛べなかったので明らかにはならなかったのだが、エンジンが進化して高度を稼げるようになると、高空の空気の薄さからエンジンのパワーが出なくなってしまったのだ。
そこで考え出されたのが、スーパーチャージャーである。このシステムは、エンジンの出力軸を駆動源としてコンプレッサーを回すことで、シリンダー内に強制的に空気を送り込むというもの。そうすることで空気が薄い=酸素量が少なく爆発力を得られないという状態を解消しようとしたわけだ。
それで高空でもパワーが出るようになったが、さらに高度が上がるともっと酸素が必要となるため、ギアや流体継手を使ってコンプレッサーの回転数を高度によって切り替える方式が編み出された。
ところが、このスーパーチャージャーはエンジンの出力を使って駆動しているため、たくさん仕事をさせようとするとその分、パワーロスも大きくなってしまう。その問題を解消するために考え出されたのが、排気ガスが流れる力を使ってコンプレッサーを回す、ターボチャージャーである。ターボチャージャーはスーパーチャージャーのようにベルトやギアを使って駆動する必要がないため、より高回転で回すことができる、というメリットもあった。
しかし、高回転で回せるがために、軸受けやコンプレッサー自体が熱くなりすぎてしまうという問題もあり、当時のターボチャージャーは耐用時間が短かったりもした。そこから少しずつ進化をしてきたのが、現代のターボチャージャーである。
ちなみに、空気を圧縮してエンジンに送ると、空気は熱を持ち、膨張しようとするため吸入効率が悪くなってしまう。そのため中間冷却器、いわゆるインタークーラーを通して吸入気を冷やすのだが、航空機の場合そのせいで空気抵抗が大きくなってしまいがち。そこで吸入気を冷やすために考えられたのが、水メタノールを噴射し気化潜熱を利用する方法だった。
2015年にBMWが「M4 GTS」に水メタノール噴射を採用したが、その元となるアイデアや機構は、BMWも含む航空機メーカーが80年以上前に実用化していたものなのだ。
ブーストが瞬時にかかる
本題のスーパーチャージャーへ話を戻そう。クルマも航空機と同じように過給をしてやればそのぶんシリンダー内に入る酸素量が増えるため、強い爆発力を得ることができる。簡単にいえば同じ排気量でも、過給をすれば大パワーが得られるわけだ。そこで当然考えるのが、スーパーチャージャーやターボチャージャーの利用なのだが、クルマの場合は排気量が航空機と比べるとはるかに小さい。
航空機のレシプロエンジンは25L〜30Lで、クルマはその1/10くらいだ。そうするとトルクも当然小さい。また、回転数の上下幅も航空機のレシプロエンジンではせいぜい3000rpmが上限なのに対し、クルマのエンジンは6000rpmは当たり前で、小排気量ということもあって回さなければ必要な力を得にくい。
そうするとスーパーチャージャーのエンジンの出力軸を作動の源とするという部分が弱点となってしまいがちだ。もちろん、メリットもある。排気ガスの力でコンプレッサーを回すターボチャージャーは、どうしてもアクセルを踏んでから過給がはじまるまでのレスポンスが悪くなりがちだが、スーパーチャージャーはエンジン回転数とコンプレッサーの動きがリンクしているので、ブーストが瞬時にかかる。
それでもなお、現在少数派となっているのは、制御の進化によってターボチャージャーの弱点がカバーされてきたから。そうするとパワーを無駄にしないというターボチャージャーのほうが有利となるのだ。
ただ、新しい流れがないわけではない。メルセデス・ベンツやアウディは、電動ターボシステムをすでに実用化している。これは低回転でモーターを使ってコンプレッサーを回して過給し、高回転では従来のターボチャージャーに切り替えることにより、シームレスでエネルギーロスが少ない過給を行えるようにしたもの。
より進化したシステムとしては、F1ですでに実用化されているMGU-H(Motor Generator Unit-Heat)がある。これは排気ガスの力で回るタービンとコンプレッサーをつなぐ軸にモーターを組み込むことで、低回転ではモーターでコンプレッサーを回し、高回転では排気ガスの力に切り替え、さらに全開走行時などタービンが余計に回ってしまっているときにはモーターを発電機として使うシステムとなっている。
このように、技術というのはつねに進化を続けていくものだ。振り返ってみればターボチャージャーよりもスーパーチャージャーのほうがレスポンスが良くていいときもあったし、ターボのほうが大パワーが出せるからいいときもあった。そして今は「いいとこ取りをすればいいじゃない!」という時代だ。先進技術としてもてはやされていたF1のMGU-Hは2025年限りで廃止されることになっているが、しかしその技術はいずれ市販車に活かされていくことだろう。