ルート66で最長の620kmにわたって走るオクラホマ州
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内。シカゴを出発して西に向かい、イリノイ州からミズーリ州、カンザス州を通り、オクラホマ州へやって来ました。今回はオクラホマ名物の「ブルー・ホエール」を紹介します。
小さな動物園オーナーが妻のために製作、たちまち地元の名物スポットに
東から西まで合計8つの州にまたがるルート66。そのうち距離がもっとも長いのはオクラホマ州で約620kmと、最短であるカンザス州(約21km)の30倍に迫る。前回で紹介したミュージアムを筆頭に名所は数多いが、一番有名なスポットは果たしてどこだろうか。
個人的には州内で2番目の都市タルサに隣接する、カトゥーサという街のブルー・ホエールを推したい。地図を見れば分かるとおりオクラホマは内陸に位置し、東西南北いずれの境でも海と接していない州なのだ。それにも関わらず名物がホエール、つまりクジラとはどういうことだろう。
1970年代の初頭にカトゥーサで小さな動物園を営む、ヒュー・デイビスは妻ゼルタへのプレゼントに頭を悩ませていた。動物を愛する彼女はなかでもクジラが特に好きで、数々のグッズをコレクションしていたとのこと。そこで彼は動物園の敷地にある自然の池を利用し、クジラの巨大なモニュメントを作ろうと考えた。
ヒュー・デイビスはハロルド・トーマスという溶接工に協力を仰ぎ、全長が8mにも及ぶクジラの骨組みを鉄パイプで作り、さらに表面を石膏とコンクリートで固めていく。大きく開けた口から出入りできるようにし、ヒレの部分にはウォータースライダー、そして尻尾には飛び込み台も備え付けた。
完成したブルー・ホエールは34回目の結婚記念日である1972年9月7日、ヒュー・デイビスから愛妻ゼルタへ正式に贈られたという。当初は自分たち家族だけで使う予定だったらしいが、ルート66沿線で大都市タルサに近い立地のよさで、たちまち観光客の間で話題となり人が集まるようになった。
サービス精神の旺盛な彼は「じゃあみんなが使えるようにしよう」と、大量の砂を運び込むなどして安全に池で遊べるように整備し、ピクニック用のテーブルを作ったりライフガードまで雇い開放した。
デイビス夫妻の没後も地元の人々の手で維持されている
カトゥーサだけじゃなくタルサ市民にとっての憩いの場となり、ルート66の名所としても高い知名度を獲得したものの、1988年になると不況のため営業を停止せざるを得なくなる。ヒューは1990年に亡くなりゼルタも2001年に亡くなると、ブルー・ホエールと池を含む公園はアッという間に荒れ果ててしまう。
それを残念に思ったカトゥーサの人々が立ち上がり、修復を目指し募金とボランティア活動をスタート。彼らの情熱が見事に実を結んでクジラは往年の姿で再び元気な姿を現し、現在も頻繁にペンキの塗り直しなどメンテナンスが行なわれているそうだ。
今は魚がいるようでプールとしては使っていないのかもしれないが、休日はピクニックを楽しむファミリーや写真を撮る観光客の姿が多く、デイビス夫妻が思い描いたであろう憩いの場であり続けているのが嬉しい。
ちなみにブルー・ホエールはルート66に限らず、オクラホマ州を代表する名所でもある模様。アメリカ発の『10 DAYS IN THE USA』というボードゲームで、カードに各州のシンボルがひとつ描かれており、オクラホマ州はまさにこのブルー・ホエールだ。ルート66を旅するボードゲーム『MOTHER ROAD Route 66』でも、オクラホマ州にはブルー・ホエールのイラストおよび「Catoosa, OK」の文字が。
ヒュー・デイビスが妻のために心を込めて作り上げた巨大な青いクジラは、ルート66という地域や時代を超えてアメリカ中の人々から愛されているのだ。
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