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バブル時代の「アーマーゲー」はランボルギーニやフェラーリと同価格帯でした。それがいまや1200万円のバーゲンプライスです

8万4000USドル(邦貨換算約1230万円)で落札されたメルセデス・ベンツ500SEL AMG 5.4(C)Courtesy of RM Sotheby's

予想よりも低い落札額でハンマーが打たれた

2023年8月17日〜19日、RMサザビーズがアメリカ・モントレーで開催したオークションにおいてメルセデス・ベンツ「500SEL AMG5.4」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。

AMGドイツ本社に500SELベースの新車を注文

W126型のメルセデス・ベンツ「Sクラス」は、昭和生まれの人間にとっては憧れのクルマと言っていいだろう。トップモデルは560SELなのだが、排気量に関係なく、堂々とした佇まいはまさに高級車といえるもの。世界的にも評価が高く、各国のVIPがこれに乗っていたように記憶している。ま、そこには防弾装備車のベースとしても使われていた、ということもあったのだろうが……。

そんなW126型Sクラスだが、アメリカでは1979年の発売開始から1985年まで、500SEと500SEC、そして500SELは販売されていなかった。それがアリゾナ州に住む、とある数奇者にとっては許せなかったのだろう。その数奇者は1984年11月、AMGドイツ本社に500SELベースの新車を注文した。

1985年当時の500SELの新車価格はおよそ5万2000ドル程度だったそうだ。これをそのころのレート、1ドル240円で換算すると、1250万円ほどとなる。そして、AMGにさまざまなオーダーをしたその価格も、同じく5万2000ドルほどかかっていて、それは現在も残っているAMGのインボイスで明らかとなっている。

AMGに対してリクエストされた作業は、当時6.0Lまで排気量アップが可能だったエンジンを、5.4L仕様とすることと、サスペンションをビルシュタイン製AMGチューンに交換すること、さらにシャシーの補強やジェネレーション1のエアロキットの装備、16×8.0Jサイズのホイールの装備など。

3000万円近い費用をかけて手に入れた「500SEL-AMG5.4」

インテリアはドアやセレクター周辺、ピラーなどにレザーを配し、リアドアウインドウにはプライバシーカーテンも装備されている。オーディオシステムはヘッドユニットフレームなどを金メッキした、クラリオン製となっている。

ここまでの作業でかかったのは、およそ10万4000ドルほど。当時の日本円で2500万円といったところだ。さらに、ドイツからアメリカへの輸送費や登録費用なども考えると、3000万円近い費用をかけて、当時としてはおそらく唯一のW126型500SEL-AMG5.4を手に入れたのだ。

ちなみに1985年ごろの3000万円というと、どのくらいの価値があったのか。ちょっと調べてみたら、日本車では「センチュリー」のもっとも高価なEタイプが約600万円、FC3S型「RX-7」は、もっとも高いグレードで355万円くらいだった。

ポルシェは930型がちょうど世代だと思うのだが、日本での新車価格は1400万円くらいだったと記憶している。フェラーリ「308」や「カウンタック5000クワトロバルボーレ」あたりのアメリカでの価格は、日本円でいえばおそらく3000万円くらいだったのではないかと思うわけで、そう考えるといかにアメリカでとはいっても、500SEL-AMG5.4を手に入れるのにこの金額を用意したというのは、凄いことだと思ってしまう。

走行距離は約5万キロとアメリカにしては少ない

さて、今回RMサザビーズオークションに出品された500SEL-AMG5.4だが、その後は1989年5月にペンシルバニア州ピッツバーグ近郊に住む、新たなオーナーの手に渡った。それ以降登録されたオーナーは、いずれもピッツバーグ周辺の4名。オークション出品時の走行距離は約3万1000マイル(約5万km)と、年式とアメリカという土地柄から考えれば少ない。

その状態の良さから、エスティメート(推定落札価格)は10万〜15万ドル(邦貨換算約1460万円〜2190万円)と、当時6.0LまであったAMGチューニングの中では比較的おとなしめな5.4Lエンジンながら、高めの値づけとなっていた。しかし実際には、8万4000ドル(邦貨換算約1230万円)と、エスティメートよりも低い落札額となっている。

当時のオーナーがいかに情熱と時間、お金をかけて唯一の1台をつくったとしても、時間が経てばその想いは薄まってしまい、トップモデルの魅力にはかなわない、ということなのかもしれない。しかしその価値を理解できる人は、間違いなくいるはず。このクルマもさらに時間が経てば、その価値が見いだされていくのかもしれない。

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