ロマンティックな高原へ、いざ
至福のコーヒーとドライブを味わうために向かうのは「日本百名山」。今回はジープ「レネゲード4xe」で、日本有数の高原と名高い「美ヶ原」で、一杯の「山の珈琲」を嗜んできました。
満開のレンゲツツジに誘われて予定変更
美ヶ原へのアクセスは何通りかのルートがある。しかしほとんどの人が、ビーナスラインを通って美ヶ原を目指すに違いない。ビーナス=美の女神の道を通って美しい高原を目指す。なんとも自然な流れである。クルマを降り高原を歩いて景色を楽しむ場合も、こちらの方が王道であろう。
実は都心を旅立った早朝までは、諏訪ICで降りて、車山を抜けてビーナスラインを走る予定でいた。しかし、中央高速で北上中に「美ヶ原 6月 花の見頃」と検索すると、レンゲツツジが山肌を鮮やかな朱色に近いオレンジに染めている画像が目に飛び込んでしまったのである。急遽、ビーナスラインではなく、梓川スマートICを降りて美ヶ原スカイラインと美ヶ原高原道路を使って美ヶ原を目指すことにした。
もうひとつ付け加えると、平坦な高原である美ヶ原のどこで山の珈琲を淹れるか考えた時、王ヶ鼻がいいと判断したからである。松本市を眼下に遠くの北アルプスを眺めながらの珈琲は格別に違いない。時間があれば足を延ばして高原を歩いてみるのもいい。
コンパクトなボディにちょうどよいワインディング
さて、美ヶ原スカイラインはビーナスラインのようなダイナミックな景色こそないものの、ワインディングロードとしては結構楽しめる。ハイブリッドモードでコーナーを気持ちよく抜ける運転で登っていたら、瞬く間にバッテリー残量は減っていった。レネゲード4xeは、これまで山の珈琲で山行のサポートをしてくれたグランドチェロキー4xeとラングラー4xeとは、同じ4xeでも成り立ちが異なる。
3台ともにHYBRIDモード(電気モーターとガソリンエンジンをともに利用するモード)、ELECTRICモード(100%EV走行を行うモード)、E-SAVEモード(ガソリンエンジンを優先的に使用し、バッテリーの充電レベルを維持するモード)という3つのドライブモードが備わっているのは同じだ。ただ、レネゲード4xeのみ、前輪と後輪が機械的につながってはおらず、エンジンでフロント、モーターでリアを駆動するシステムとなっている。そのため、ELECTRICモードにすると完全にリア駆動のみとなり、バッテリーが空になるとフロント駆動のみになる。一方のグランドチェロキー4xeとラングラー4xeでは、ELECTRICモードでも四駆と二駆の切り替えを行うことができる。
美ヶ原スカイラインと美ヶ原高原道路とあえて記したが、じつはそれらは通称で、本当の名は林道・美ヶ原線と美ヶ原公園沖線という。ロマンティックな高原へ向かうのだから、あえて通称を使わせていただいた。美ヶ原スカイラインから美ヶ原高原道路へと入ると、5kmほどで駐車場が備わったレストハウスがある。一般車が入れるのはここまでだ。
都会もアウトドアもアクティブに楽しめる!
さっそく王ヶ鼻へ向かう準備に取りかかる。ドライビングシューズからトレッキングシューズへと履き替えている際に、ふと、今しがたレネゲード4xeで走ってきた美ヶ原高原道路沿道のレンゲツツジの群生地を歩いてみたくなった。登山は事前に厳密な計画を立てて行うものだが、今回の百名山は登山というにはほど遠いハイキングに近い行程である。駐車場から王ヶ鼻までも1時間少しもあれば到着してしまう。急遽、レンゲツツジを愛でるスケジュールに変更して、王ヶ鼻での山の珈琲は翌朝にすることにした。
レンゲツツジは、間近で見ると満開のピークをほんの少しだけ過ぎようとするところであった。一週間後の週末には、花弁は茶色く色褪せ萎んでしまっていただろう。フレキシブルに予定を変更したおかげで、思わぬ光景を愛でることができた。
そもそもビーナスラインで向かう予定の美ヶ原であったのを、レンゲツツジの盛りと聞いて予定を変更し、さらにその花の美しさに延泊しようなどと思い立ったのは、レネゲード4xeのせいかもしれない。レネゲード4xeの気軽なアクティブさが、きっとマインドに伝播したせいだ。「いま、この時」を逃すと、次にこの光景に出会えるのはいつになるのかわからない。
2030年には欧州で販売される新車は、すべてEVになるという。EVがもっともエネルギー効率が高く、環境にやさしいとは一概にも言えないかもしれないが、EVにシフトすることが決まっている以上、プラグインハイブリットはそのゴールへの過渡期のテクノロジーといえるのだろう、それも高度に発達した。つまり、エンジンとモーターの良いところを味わえるレネゲード4xeは、「いま、この時」に乗っておくべき1台といっていい。
ハイブリッドであることのアドバンテージ
運良く松本に取れた宿を出る時は、雲の合間に青空が見えていたが、美ヶ原スカイラインに差し掛かると、進む先の景色は白く霧がかかっていた。正確には雲の中を走っているのだろうが、次のコーナーが見えないほど視界が悪いわけではない。前日にすでに往復している道なので、ある程度は先を予想できる。つまり、走るのが楽しい。
純然たるEVだと、まだ往路のワインディングでスポーツ走行に没頭できるほど心許せる存在ではない。実際、宿泊した宿で充電することはできなかったので、すでにバッテリー残量は底をついてしまった。タンク容量が若干少ないレネゲード4xeではあるが、下山すればガソリンスタンドですぐに満タンに給油して、高速道路で帰路に着くことが可能だ。ドライビングに集中する意識をスポイルするものは、ない。
前日と違い、駐車場にはほとんどクルマが停まっていなかった。レンゲツツジの姿が白くぼやけてわずかに認識できるほどの視界であったので、わざわざ登ってくる観光客もいないのだろう。
ジープに新しい価値をもたらしたレネゲード4xe
昨日と違って、上下レインウェアを着た装備で登山を開始する。振り返ると北アルプスが遠くに見渡せる景色なのだが、一面真っ白だ。ところどころに道標のようにレンゲツツジが咲いている。この登山道の先には、いかにも欧州趣味のロッジのような佇まいのホテルがある。確かに晴れてさえいれば、美ヶ原高原は北イタリアかスイスあたりの高原の一部を切り取ったような景色が広がっている。夏場は牛馬が放牧されている牧場だ。
そもそも、この高原という概念は日本にはなかった。少なくとも明治以前には。
「高原の語義もさることながら、高原の趣味もたしかに明治以後に起ったものである。それまでの日本人の自然観は、専ら南画風の林泉の趣味に執着して、開濶な草原を愛した形跡は、芸術作品上にも見られない。封建自体が終って、自由な思想が拡がり、外国文学の自然描写や洋画の影響もあって、次第に高原に美を見出してきたのであろう。」と、深田久弥の『日本百名山』には記されている。ロマンティックな高原趣味は、明治以後の思想的に自由な雰囲気のなか、醸成されたのであろう。
時代は変わり日本にも多様性の価値が根差し始めた。それは同じくクルマの世界にも当てはまって、かつてのようなクロカン、SUV、ミニバン……といったカテゴリーを横断するクロスオーバーのクルマが増えた。ジープといえばかつては軍用車であり、それが世界一タフなクロカンという文脈で語られることがセオリーであった。丸目二灯にセブンスロットのレネゲード4xeは、見た目こそジープの伝統に則っているが、タウンユースが主戦場となる、今までになかったコンパクトなジープだ。
「高原」趣味は、明治以降から戦後高度成長期にかけてロマンティックな香りを纏いながら日本人の美意識にインプットされた。レネゲードが日本に上陸したのは2015年。4xeは2020年から導入されたが、この小さなジープ──あくまでもラングラーと比べてだが──は、すでに日本人の意識の中に定着し始めている。
じつのところ、未来のことなぞ誰にもわからない。しかし、どこに向かおうとしているのかは時代を見る目を持ち合わせていれば、ある程度の予測はつく。レネゲード4xeは、間違いなく未来のクルマ社会へと繋がる流れのなかにある一台だ。だからこそ、「いま、この時」に乗っておきたい一台なのである。
深遠なる世界の入り口を広げてくれた
今回の山の珈琲に選んだのは、神田界隈と水道橋に4店舗展開している豆香房でセレクト。1996年に目白に1号店をオープンし、神田神保町にはその数年後に移ってきたという、神田界隈では後発ともいえる専門店だ。とはいえ、豆香房は珈琲日本百名店に選ばれてもいる。その理由は、各店舗で扱うコーヒー豆は、世界中から仕入れてきた生豆を、すべて神田神保町の本部で自家焙煎しているというこだわりにある。
ブレンドを含めると扱う銘柄は40種にものぼる。それらをすべて自家焙煎し、日替わりのホットコーヒーを朝・昼・午後の3回にわけて2種類ずつ提供している。足繁く通うことで多くのコーヒーを味わい、自分のお気に入りを見つけることができる。
レネゲード4xeは、ジープブランドの電動化革命の先陣を担ったモデルでもあると同時に、内容とプライスで、多くの人がジープブランドの世界観を享受できるモデルという側面も持っている。敷居を下げて入りやすくするという点では、豆香房と相通ずるところもある。
その豆香房でセレクトしたのは、モカ・イルガチェフNatural G-1。最近のトレンドであるクリアで酸味の強いミディアムローストのコーヒー豆である。エチオピアの標高2000mあたりにあるイルガチェフで栽培された豆は、甘く爽やかなフレーバーとまろやかな酸味が特徴。残念ながら、一面真っ白な世界──麓から見たら雲の中で淹れたコーヒーは、景色を愛でながら味わうものではなくなった代わりに、香りと味わいに集中できるという、むしろコーヒーに真摯に対峙する山の珈琲になった。
●JEEP Renegade LIMITED 4xe
ジープ レネゲード リミテッド4xe
・車両価格(消費税込):589万円
・全長:4255mm
・全幅:1805mm
・全高:1695mm
・ホイールベース:2570mm
・車両重量:1790kg
・エンジン形式:直列4気筒マルチエア16バルブインタークーラー付ターボ
・排気量:1331cc
・エンジン配置:フロント横置き
・駆動方式:四輪駆動
・変速機:6速AT
・最高出力(エンジン):131ps/5500rpm
・最大トルク(エンジン):270Nm/1850rpm
・定格出力(フロントモーター):20ps
・最高出力(フロントモーター):45ps
・最大トルク(フロントモーター):53Nm
・定格出力(リアモーター):60ps
・最高出力(リアモーター):128ps
・最大トルク(リアモーター):250Nm
・公称燃費(WLTC・ハイブリッド燃料消費率):16.0km/L
・燃料タンク容量:36L
・サスペンション:(前)マクファーソン式、(後)マクファーソン式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッド・ディスク、(後)ソリッドディスク
・タイヤ:(前)235/55R17、(後)235/55R17