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1億円オーバーの不思議。ポルシェ「ナナサンカレラ」の高額落札の理由は「プロトタイプ」だからでした

1億円オーバーの不思議。ポルシェ「ナナサンカレラ」の高額落札の理由は「プロトタイプ」だからでした

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TEXT: 山崎元裕(YAMAZAKI Motohiro)  PHOTO: 2023 Courtesy of RM Sotheby's

ポルシェから直接プロトタイプを購入することができた

2023年8月17日〜19日、RMサザビーズがアメリカ・モントレーで開催したオークションにおいてポルシェ「911カレラ 2.7RS プロトタイプ」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。

歴史的にも貴重なテストカー

75万8500ドル(邦貨換算約1億1000万円)という落札価格を知った時、さすがに全身が震える思いがした。その独特な蛍光イエローのボディサイドに描かれるカレラの文字や、リアのダックテールと呼ばれるスポイラーからも想像できるように、それはいわゆる「ナナサンカレラ」の愛称で親しまれる、1973年式のポルシェ911カレラRS 2.7にほかならない。いかにミントコンディションのナナサンカレラとはいえ、さすがにここまでの落札価格が記録されるとは。じつはその理由は、このモデルが誕生するに至ったプロセスにこそあったのである。

この911カレラRS 2.7は、その開発の初期段階においてヴァイザッハのエンジニアリング・チームが使用した、歴史的にも貴重なテストカーだった。そもそものベースとなったのは、1972年6月に生産された911 S 2.4で、当初はただ単に911 S 2.7として企画されていたモデルだったという。

だがボッシュ製の機械式燃料噴射装置を装備した、新開発の2.7L水平対向6気筒エンジンを搭載することで2.4との差別化を図った。サーキット走行にフォーカスしたエンジニアリングを強くアピールするため、ポルシェはそれに「レンシュポルト」、すなわちレーシングスポーツを意味するRSの称号を与え、それは実際にモータースポーツシーンでも大きな活躍を見せたのだ。

ポルシェ「911カレラRS2.7」

ヴァイザッハのエンジニアリング・チームが、911カレラRS 2.7を開発するために入手した、911 S 2.4(シリアルナンバー:9112301609)は、1年のみ生産されたオイルフラップ・モデルで、通常フューエルフィラーがある場所に、オイルフィラーがあるのが特徴だ。

蛍光イエローのボディカラーやブラックレザーのインテリア、運転席側のサイドミラーなどは、すべてポルシェがデリバリー時に装備したもので、またプロトタイプの2.7Lエンジン(エンジンナンバー:6630027)やダックテールは、ヴァイザッハで搭載された。

この911カレラRS 2.7のプロトタイプは、ヴァイザッハでの開発が終了した後、ドイツのネッカースウルムに住むフランツ・ススナー氏へと売却された。当時はいわゆるプレシリーズと呼ばれるモデルを販売することも一般的であり、またそのカスタマーはヴァイザッハの開発部門でトップの職にあったヘルムート・ボット氏とも親交があったということで、ポルシェから直接このプロトタイプを購入することができたのだという。

新たなオーナーが開発直後の姿へと丁寧にレストア

ススナー氏はその後、じつに43年間にわたってこのモデルを所有し続け、2016年にそれを売却した。売却時にはボディカラーはレッドに、またダックテールはよりグラマラスな935スタイルのものに変更されていたというが、新たなオーナーはそれを開発直後の姿へと丁寧にレストアした。エンジンや燃料噴射装置も同様に、専門業者へとそのリビルトが委託され、911カレラRS 2.7の貴重なプロトタイプは新車時のコンディションを取り戻したのだ。

ポルシェのファンならば、誰もが憧れの目を向けるナナサンカレラ。その開発ストーリーを裏付ける、さまざまなヒストリー・ファイルとともに出品されたこのモデルの落札価格は、その歴史の重みを考えればきわめて正当なものといえるのかもしれない。

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