バットモービルと呼ばれたBMW
2023年8月17日~19日、RMサザビーズがアメリカ・モントレーで開催したオークションにおいてBMW「3.0CSL」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
出品車両はオークションでの隠れた主役だった!
モントレー・カーウィークの中でも人気のイベントとして知られる、ラグナセカ・レースウェイでのモータースポーツ・リユニオン。このイベントに代表されるアメリカのスポーツカー・ヴィンテージ・アソシエーションが主催するクラッシックカー・レースに頻繁に姿を現し、2012年にはル・マン・クラッシックにも参加したBMW 3.0CSLが、今回オークションの舞台に導かれることになった。
ちなみにそのS/N:2275997は、BMW自身の製作したワークスマシンであることの何よりの証明。つまりこのモデルを購入することは、BMWのレーシング・ヒストリーの一部を手に入れることに等しいということになる。
オーガナイザーのRMサザビーズも当然のことながらそのヒストリーから相当に強気のエスティメート(予想落札価格)を提示してきた。その額は80万ドル〜100万ドル(邦貨換算約1億1600万円〜1億4500万円)。この3.0CSLは、このオークションでの隠れた主役でもあったのだ。
簡単にS/N:2275997のヒストリーを振り返っておこう。そもそも3.0CSLが誕生した背景には、モータースポーツでの戦闘力を強化するという目的があった。1960年代にはコンパクトな2002シリーズを投入し、ツーリングカー選手権で好成績を収めていたBMWだが、その後継車として選択された大型の6気筒モデルは、おもに重量面の問題でなかなかBMWが望む結果を得られずにいた。
そこで左右のドアをアルミニウム製に、またリアウインドウをアクリル製とし、装備を大幅に削減することで約200kgの減量をした3.0CSLが1971年に完成したのである。ちなみにCSLとは、ドイツ語で「クーペ・シュポルト・ライヒトバウ」、軽量なスポーツ・クーペを意味している。
フロントに搭載される直列6気筒エンジンは、生産中に改良が施され、排気量は3003ccから3153ccに、そして最終的にはコンペティション仕様では4バルブ・ユニットを採用した3498ccにまで拡大された。
そして1972年、3.0CSLは「バットモービル」とも形容された大胆なエアロダイナミクスキットを装着し、さらなる進化を果たす。これらの空気抵抗と揚力を大幅に低減するために協力したのがアルピナであったことも知っておきたい。
さまざまなレースに投入された3.0CSL
BMWモービル・トラディションの証明書によると、出品車のS/N:2275997は1973年5月に完成し、BMWモータースポーツへとデリバリー。FIAグループ2仕様へとモディファイされ、さまざまなレースに投入されている。
スパ24時間、ニュルブルクリンク1000km、ザントフォールト4時間、ニュルブルクリンク6時間などは、ワークス・チームとして参戦した代表的なレースで、さらにこの年にはイギリスのシルバーストーンで開催されたRACツーリスト・トロフィーにも参加の記録が残っている。
ヨーロッパでのレースで成功を収めた後、このモデルはアメリカのバーモント州バーリントンを拠点とするレーシング・チーム、ハーティグ・チーム・リブラに売却され、1974年を通じてチームはそれをIMSA GT選手権とSCCAトランザム・レースに参戦させた。シーズン終了後それはさらに裕福なメキシコ人レーサー、ダニエル・ムニーツへと売却。彼はこのマシンを1975年のセブリング12時間にエントリーさせるが、結果は予選16位でリタイヤというものだった。
1981年にイリノイ州の著名なカー・コレクター、ビル・ジェイコブス氏に売却されたS/N:2275997は、その後まもなくインタースポーツ・レーシングのジム・キャンベルがオーナーとなり、そこで1973年当時のグループ2仕様にフルレストアされることが決定された。
現在搭載されているエンジンは3153ccの2バルブ。現在のオーナーは2008年に入手し、その後はさまざまなクラッシックカー・レースでその姿を披露しているのは最初に触れたとおりである。
それでははたしてこの1973年式BMW 3.0CSLは、いくらで落札されたのだろうか。残念ながら今回は設定された最低落札価格をクリアできず、流札という結果になってしまった。RMサザビーズでは引き続きプライベートセールという方法で、その次なるオーナーを探しているというから、BMWの熱狂的なファンにとっては、これは見逃すことのできない一台ともいえる。参考までに3.0CSLの総生産台数は1039台。その中でグループ2のホモロゲーション用に改造されたモデルは、ごくわずかだ。