ニュルでの記録は市販車の速さの性能を表すひとつの指標となっている
よく市販車の速さの性能を示すものとして、ニュルブルクリンクでのタイムアタックの記録が引き合いに出されることがある。ドイツにあるこのコースはいったいどのようなものなのか、そしてこれまでどんなクルマが記録を打ち立ててきたのか、その歴史を振り返って解説しよう。
新車開発のための超難コース
ニューモデルのパフォーマンスを知る、ひとつの指標となっているのが、ドイツのニュルブルクリンク・ノルドシュライフェ(北コース)で計測されるラップタイムだ。そもそもこのノルドシュライフェは、1925年に公道を使用しないレース専用のサーキットとして建設が開始され、1927年に完成した。20.832kmの全長は世界最長であり、高低差は約300m。その中に172ものコーナーが点在する難コースとして知られている。そのため自動車メーカーも、このニュルブルクリンクを新型車開発のため積極的に活用し、そしていつしかそのラップタイムを競うようになったというわけだ。
ちなみに2019年まではそのラップタイム計測は20.600kmの距離で行われていたが、ニュルブルクリンクは後にそれに正式にフルラップの20.832kmのタイムを付け加えている。さらに4輪では、現在「プロダクション/ストリートリーガル」、「ノン・シリーズ/ノン・ロードリーガル」、「コンペティション」、「クオリファイング」、「レーシング」などのクラス分けが行われ、それぞれに激しいラップタイム争いが展開されている。
やっぱり地元のドイツ車が強かった
それでは、この中で最も興味があるだろうストリートリーガル、つまり公道走行可能な量産車の最速は何か。それは20.600kmの計測値では6分30秒705、20.832kmの数字でも6分35秒183を記録したメルセデスAMG「ONE」にほかならない。
以下20.832kmのラップタイムのみを比較すると、2位はポルシェ・チューナーのマンタイが開発したパフォーマンスキットを組み込んだポルシェ「911 GT2 RS MR」で、そのタイムは6分43秒300。
さらに3位は、6分48秒047のメルセデスAMG「GT ブラックシリーズ」と、再びメルセデスAMGが入る。そして4位に6分49秒328のポルシェ「911 GT3 RS」と続く。地元ドイツ・メーカーの強さはやはり圧倒的といったところだ。
20.600kmのラップタイムで、このドイツ勢に続くのは、6分43秒22を記録したマクラーレン「P1LM」。さらに6分44秒97でフィニッシュしたランボルギーニ「アヴェンタドールSVJ LP770-4」がそれに迫る。
ランボルギーニはその2年前にも「ウラカン・ペルフォルマンテLP640-4」を、6分52秒01でフィニッシュさせることに成功している。ただしこれらはいずれもロールケージなどを装備した、いわゆるニュルブルクリンク・テスト用の専用車。タイヤの選択も含め、ニュルブルクリンクのタイムアタックはレギュレーションの解釈が難しい。
ついにEVが台頭してきた
ノン・シリーズ/ノン・ストリートリーガルのクラスでは、ポルシェが自身のル・マン・プロトタイプマシンをさらにモディファイした「919 Hybrid EVO」が、20.832kmのフルコースを5分19秒546で走行してみせた。
その翌年にはVWのEVスポーツ・プロトタイプ「ID.R」が同コースを6分5秒336でラップ。アベレージ・スピードで206.96km/hとなるこの記録は、EVの可能性、とりわけ運動性能を世界にアピールすることに大いに貢献したのは記憶に新しいところである。EVでは中国のNIOも2017年には「EP9」で6分45秒90というラップタイムを記録。その名前を世界に広く轟かせた。
ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェ。別名「緑の地獄」とも呼ばれるこの難コースからは、これからもさまざまな記録が生まれ、それが誇らしく伝わっていくのだろう。