デュカトで長距離運転は大丈夫?
AMW編集部員がリレー形式で1台のクルマを試乗する「AMWリレーインプレ」の最後を務めるのは、編集長西山。撮影も編集者自らが担当する当企画なのですが、今回は取材の都合で遠く四国までカメラマンと2人行くことになったので、撮影はカメラマンにお任せすることになりました。
「素」のデュカトでインプレッション
神田神保町のビル街に運んでもらったデュカトは、ちょっとした小山のような大きさ。ミュルザンヌやゴーストなど、大きなクルマを運転することは一切厭わない私ではあるけれど、デュカト級の背の高さは初めての経験。大阪のショップで購入したE30M3(2台目)を積載車でピックアップしに行ったことはあっても、車高はこれほど高くはなかった。試乗前から非常に楽しみ。初体験はいつになってもワクワクさせられるものです。
なのですが、今回のデュカトの試乗は、これから購入・納車される人たちにとってはあまり参考にならないことを先にお伝えしなければなりません。なぜなら、みなさんのデュカトのカーゴスペースは、キャンピング仕様をはじめライフスタイルに合わせてカスタムされているはずだから。つまり車両重量がまったく違うので、私が感じたことの再現は、ほぼできないと思うのです。
とはいえ、日常での使い勝手などのインプレッションなら別。しかもたっぷりと長距離を試すこともできたので、デュカトの使い方としては、参考になるかもしれません。
最初に、オーナーになった方にとって有益な情報は、都市部の路上にあるパーキングメーターの使い方です。駐車場所の横にコインを投入する機械が設置されている、1時間300円のアレですね。
編集部の前の通りにもこのパーキングメーターがあるので、荷物を出し入れに使ってみたのですが、コインを投入したばかりなのに、荷物を下ろして、クルマから離れようとしたら「未納」の文字が点灯! デュカトを動かしたわけでもないのになぜ? なのですが、左側面のスライドドアを開けたためにセンサーが反応してしまったのでした。ドアを開く前に一瞬、もしかして……とイヤな予感が脳裏かすめたのですが、的中してしまいました。
とても便利だなぁ、と思ったのは、濡れたビニール傘を、濡れたままサイドステップの上段に置いてドアが閉められるという点。雨の日の傘の置き場には困るものですが、これは便利です。ロールス・ロイスの傘入れより便利。わざわざ巻かなくても大丈夫だから。
想像していた以上に運転が楽だった
さて、いよいよ実走です。まず着座位置が高いことが、これほどまで長距離を走って疲れない要素であることがわかりました。しかし、現代のランボルギーニやフェラーリなどの着座位置の低いスーパーカーも、実は500kmくらいの距離ならさほど疲れません。いつでもどこからでも、踏めば加速し安定したハンドリングなので、精神的にストレスを感じないから──前方のクルマがすぐに道を譲ってくれるということもありますが……。
その点デュカトには瞬間移動的な加速は望めないし、横風だって煽られると怖い。しかし、高速道路で流れにのれないことはないし、横風もクロスウィンドアシストのおかげでヒヤリとするシーンもほぼ皆無。何よりアイポイントが高いことで進行先の道路状況を掴みやすい。先が見通せるというのは、これほどまでにストレスフリーなのだと実感した次第。渋滞時などいつも試乗するクルマは周りのクルマから見下ろされ、車内のプライバシーもあったものじゃないのですが、その点デュカトはほぼトラックと同じ目線。アイポイントが高いだけで、人は不思議と優越感に浸れることを初めて知りました。
そして、長距離のドライブによる疲労が驚くほどないことも特筆すべきポイント。ラグジュアリーなGTこそ長距離に向いていると思っていましたが、デュカトもいい線いっているのです。この理由は、先ほど述べたアイポイントが高いことによる心理的な圧迫感がないこと、普通に見えて、その実エルゴノミクスを考慮したシートや操作系のデザインと配置であることなどが挙げられるでしょう。
そもそも商用車であるデュカトは、長時間の運転にも耐えられるよう設計されているはず。GTカーとは違う基準で、長距離ドライブ向けなのです。GTカーには、ドライビングを純粋に楽しむ要素も含まれていて、そのため高速を走っているとアクセルペダルを踏み込まないよう自制しなければならないというストレスがあります。その点、デュカトは淡々と走ることに徹することができるのです。
絶景を満喫しながらのドライブ
さて、淡々と走って向かった先は四国八十八ヶ所の84番札所である屋島寺(途中、岡山国際サーキットで2日間取材をはさんで)。2022年に22日間かけてミニベロBD-1で通し打ちをした際に、21日目に登った屋島スカイウェイです。ワインディングだとついつい性格上走りを楽しんでしまうのですが、デュカトはそんなクルマではありません。のんびりと──とはいえそこそこの速度で高度を上げていくと、アイポイントが高いおかげで、瀬戸内の絶景を見下ろしながらのドライブとなりました。
BD-1の時は肉体的にしんどくて、景色を愛でながらのヒルクライムではなかったんだなぁ、と改めて振り返りながらの観光ドライブ。この山頂の屋島寺の後に、一旦山を降りて、隣の山の山頂にある八栗寺を打つ必要があったため、当時は精神的なゆとりもなかったのでしょう。
そもそも、ランドナーやロードバイクなどで通し打ちしなかったのは、なるべく歩く速度に近いペースで景色を愛でながら、多少は辛い思いをしてお遍路しようと思ったから。しかし、デュカトからの眺めは、まったく違った新鮮な感動をもたらしてくれたのです。悪くないどころか、もう一度デュカトで逆打ちしたくなったほど。
目で見たものを記憶に定着させる旅の相棒に
さて、デュカトから話は逸れてしまいますが、日本橋から五街道旧道もすべてBD-1で走破したことがあります。東海道から手始めに中仙道、甲州街道、日光街道、奥州街道と全旧道を行ったきりの走破。高性能なクルマで走ったことはあっても、道中の寂れた宿場や道そのものの記憶がほとんど残っていないことに気がついて、時間的な制約も鑑みて、ちょうどよい頃合いのBD-1で旅することにしたのです。その延長線上に四国八十八ヶ所のお遍路があった、というわけですね。何かの禊ぎのためのお遍路ではなかったことだけは確かです。
クルマで四国は都合2周以上はしていますが、目的地以外はほとんど記憶に残っていません。それらのクルマ旅は、BMW M6やマセラティグラントゥーリズモなどで、走ることの方に専念してしまったからでしょう。
その点、デュカトは違いました。運転席から新たな発見をもたらしてくれたばかりか、ちょっと寄り道してみようと、近くの漁港に立ち寄ったり、旅そのものを満喫することかできたのでした。
そこで妄想は膨らんでしまうのです。──ベッドとパソコン仕事ができるテーブルがあればそれでいい。BD-1くらいは余裕で折り畳まなくても積めそうだ。自分仕様のキャンピングカーにカスタムしたデュカトで北海道から九州まで、放浪の旅に出るのもいいなぁ。もしくはサンティアゴ・デ・コンポステーラを下見がてらデュカトで走破してみたい。否、ユーラシア大陸横断だってできそうだ──そんな夢を妄想しながら、1人用のテントをデュカトのがらんどうのカーゴスペース内で組み立ててみたのでした。