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元祖アルピーヌ「A110」が約1650万円で落札! バーゲンプライスな理由はアメリカでは不人気だから?

11万2000ドル(邦貨換算約1650万円)で落札されたアルピーヌA110 1600 VD(C)Courtesy of RM Sotheby's

日本のエンスー熱愛の元祖アルピーヌA110

さる2023年8月17〜19日、「モントレー・カーウィーク」の一環としてRMサザビーズ北米本社がカリフォルニア州モントレー市内にて開催した「Monterey 2023」では、バーンファインドされたクラシックフェラーリによる「Lost & Found Collection」や、1980年代以降のラリーマシンが結集した「The World Rally Classics Collection」などの特別企画が話題を呼んだのは記憶に新しい。しかし、それらの特別企画以外でも、興味深い出品が数多く見られた。今回はその中からラリーカー仕立ての「アルピーヌ・ルノーA110-1600S」をご紹介したい。

ラリーカーの常識を変えた名作、アルピーヌA110とは?

1962年から1977年まで生産された「アルピーヌ・ルノーA110ベルリネット」は、第二次大戦後のフランスでは随一ともいえるスポーツカーブランド、アルピーヌの中でも最高傑作と目されるモデルである。

南仏の地方都市、ディエップのルノー販売代理店主ジャン・レデレが1955年に興したアルピーヌは、ルノー量産車のコンポーネンツを活用したスポーツカーを製作するというスタイルを、復活後の現在に至るまで貫いている。

創業から1995年にいったん歴史の幕を閉じるまで製造されたスポーツカーは、いずれもエンジンをリアに置くRR車。ルノー「4CV」をベースとする「A106ミッレ・ミリア」に始まり、後継車「ドーフィン」をベースとする「A108」。そして革新的なRRベルリーヌ「ルノー8(R8)」をベースとしたのが、A110ベルリネットである。

自社製のバックボーン式フレームにR8用の前後サスペンションと4輪ディスクブレーキを移植し、FRPの美しいボディを組み合わせたモデルだが、その成功の鍵は、なんといっても「ル・ソルシェ(魔術師)」ことアメデ・ゴルディーニがチューンした高性能エンジンを得たことだろう。

1965年、A110-1100ゴルディーニ(1100G)からスタートしたアルピーヌとゴルディーニの伝説的コラボレーションは、ラリー活動で一気に開花することになるのだ。

生来、伊「ミッレ・ミリア」などの長距離ロードレース用GTから発展してきたA110が、じつはラリーマシンとして非凡な資質を持っていることに気付いていたレドレとゴルディーニは、さらに高性能な「A110-1300S」を開発。まずは国内ラリーから本格的に総合優勝を目指して参戦して、予想どおりの好成績を挙げる。

しかし、ポルシェ「911」など強力なライバルが居並ぶ国際ラリーに打って出るには、依然としてパワー不足であることが露呈。そこで1.6Lユニットを搭載した「1600S(1600VB)」を製作し、WRCの前身である欧州ラリー選手権(ERC)に投入することになった。

彼らの目論みは見事に功を奏し、素晴らしい速さと耐久性を兼ね備えたA110は、1971年シーズンにはERCで初の全欧タイトルを獲得する。さらに1973年シーズンには伝統の「モンテカルロ・ラリー」優勝を皮切りに、この年から開幕したWRC選手権製造者部門でワールドタイトルを制覇。ついに、世界ラリー界の頂点を極めるに至った。

そしてルノー・アルピーヌA110の活躍は、長らく耐久性と長距離の走破能力が最大の勝因とされていた国際ラリーの局面を、スピード至上主義へと一変させてしまったのである。

アメリカ国内に生息する唯一の1600VD

1973年10月以降のA110-1600Sは、従来のスウィングアクスル式後輪懸架から、その2年前にデビューしていた上級モデル「A310」と共通のダブルウィッシュボーンに変更。3穴のアロイホイールもA310と同じ4穴とした発展型1600S、いわゆる「1600VD」へと進化を遂げる。

この夏、RMサザビーズ「Monterey 2023」オークションに出品された1974年型A110も、この1600VDの1台である。

車両とともに保管されているルノー本社発行の生産証明書によると、このA110は魅力的な色合いのアルパイン・ブルーに仕立てられて、1974年2月25日にディエップ工場からラインオフ。新車時からエンジンナンバー#1173が搭載されるが、これは現在搭載されているエンジンのタグとマッチしている。

ロングセラーモデルから高度に発展したバリエーションとして、この1600VDはグループ4仕様オプションの軽量ファイバーグラス製バンパーを前後に備えるほか、小さなフェンダーフレア、大型のシビエ社製ヘッドライトとドライビングランプ、後期スタイルのAlpineロゴ、ボディサイドおよびボンネットのトリムなど、ほかのA110とは異なる多くの特徴を備えている。

またこの個体特有の特徴として、2連装されたウェーバー45DCOEキャブレターと「デビル(devil)」社製マニフォールド&エキゾーストを備えた1.8Lのワークス・レーシングエンジン、5速マニュアルトランスミッション、4リンク式サスペンション、ルノー「17」用のブレーキキャリパー&ローター、フロント配置のラジエーターなどを装備する旨がアルピーヌのレジスターに記されている。

さらにアルピーヌの定番、13インチの「ゴッティ(Gotti)」社製モジュラー4ボルトホイールを装着し、英「エイヴォン(Avon)」タイヤが履かれている。

前オーナーのフィリップ・ドゥ・レスピネイが調べたところによると、このA110はもともとフランスのグループ1ドライバーに新車として納車されたとのこと。この初代オーナーとともに何度もラリーに参戦したのちに、街乗り用のスポーツカーとして売却された。

1986年にこのクルマを購入したドゥ・レスピネイは、アメリカ合衆国に持ち込む。彼はクラシックカーイベントでこのマシンを愛用し、高いポテンシャルを証明した。

1995年にこのアルピーヌは、インディアナ州サウスベンドに在住していた故トム・ミトラーの有名なレーシングカーコレクションに加わる。記録に残るレース日誌が示しているように、ミトラーはアルピーヌをアメリカ中西部だけでなく、世界各地のイベントで熱心に走らせた。

そしてミトラーの没後、このA110はインディアナ州の大規模なプライベートコレクションにくわえられ、2020年に現在のオーナーがそのコレクションから譲り受けたという。

アルピーヌ・ルノーの記録を管理するオーナー協会によれば、この車両は、同協会が登録簿を発行した時点で、米国に存在することが確認されている唯一の1600VDとのこと。またヒストリーファイルとスペアホイールも付属していた。

アメリカでは超レアな1台ということもあってだろうか、RMサザビーズ北米本社は現オーナーとの協議の結果、15万ドル~17万5000ドルという、なかなか強気のエスティメート(推定落札価格)を設定した。ところが実際のオークションではビッド(入札)が進まず、終わってみればエスティメート下限を大きく割り込む11万2000ドル、つまりは約1650万円で落札されることになった。

現在の日本円に換算すればけっこうな金額なのだが、その本格的なラリー仕立てを思えば、ドル建ての落札価格は比較的リーズナブルともいえる。

だから、元祖アルピーヌA110はヨーロッパおよび日本では大人気を誇りつつも、やはりアメリカ市場好みではないのかも・・・・・・? などと感じられてしまうオークション結果となったのである。

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