神保町から各地へ出展する移動書店「ハリ書房」
シトロエン乗りって、やはり変わった人が多いのか? そんな都市伝説を検証するために2023年9月17日(日)、飛騨・高山で行われた「シトロエニスト ランデブー オーナーズ フェスティバル2023」で、オーナーたちの生態に迫ってみる迫真ルポ。第5回は、「ベルランゴ」でスワップミートに出展していた、東京は神保町の本屋さんをご紹介しよう。
オンラインと実店舗と移動店舗、3モードを夫婦で切り盛り
クルマのイベントのスワップミート&フリーマーケットといえば、パーツやノベルティグッズあたりがやはり、扱われるアイテムとして定番となる。そしてシトロエンの場合、ベルランゴのようなアウトドア好適モデルがあるので、キャンプ道具や釣り道具、あるいはベルランゴ用に専用フィットさせたアイテムも少なくない。実際、高山で行われた今回のミーティングにも、そうしたお店がベルランゴでやって来ては、来場者たちに盛んにアピールしていた。
そんな数あるフリーマーケット出展店の中で、格別に目立っていたのが、「ハリ書房」だ。普段は東京・神田神保町をベースとしている本屋さんで、出先での店舗そのものが、ベルランゴなのだ。
「基本的には、関東圏から都内、長野などへ、シトロエンやクルマ関連以外のイベントでも、週末の催しやフェスなどに出展しています」
と、店主の西山太郎さんは説明する。お揃いのオーバーオールで身を包んだ奥様と、ふたりで切り盛りする移動書店だ。
もちろんベルランゴの荷室が広大だとはいえ、持ち運べる本のタイトルには限りがあるから、ハリ書房は本のセレクトショップというわけだ。今はオンラインと神保町の実店舗、そしてイベントでの出張移動店舗という、3モードで経営されている。
出展する地域は、ふたりの実家である新潟や富山に寄ることも多いというが、今回はシトロエンの公式イベントということで、岐阜まで足を伸ばしてみたのだそう。
子どもへの学習支援NPO活動から移動書店にチャレンジ
開け放たれたら正方形の開口部をもつリアハッチの中には、ぎっしりと本棚が並んで、本が陳列されている。2列目シートを取り払った後席とスライドドアの側も、外の方を向いて本の背表紙が並んでいる。さらに簡易なテントを開いただけのシンプルな出展スペースながら、サン・テグジュペリの『星の王子さま』をはじめ、フランスに関するレシピ本や料理本を前面に出しつつ、文芸書やエッセイ、純粋な実用書というよりは頭の体操や、トリビアっぽいものがチラホラ。そんなバランス感のいいセレクトで並ぶ。
「このカタチで書店として始めたのは3年前、2020年の頃です。もともと児童の学習支援をするNPOを10年ぐらいやっていて、その中で本を紹介することも多々あるんですね。でもコロナ禍でなかなか書店にも行きづらくなった時、イベントやミーティングの趣旨に沿ったテーマというか、雰囲気やフィールに合う書籍をあれこれ、来場者の方々に提案できたら面白いんじゃないか? と考えたんです」
ベルランゴ1台で、これだけの本が運べるのかという量の理屈より、イベントに合わせて、ひとつのアーカイブというか文化的リソースとして、これだけ興味や話題が広がっていくところが素晴らしい。
イベントだからこその新たな本との出会いもある
ざっと300タイトルほどが並べられているが、本のセレクトは老若男女いずれ向けにも、偏り過ぎていない。名作や古典もあれば、巷で流行りの話題にかけたものも少なからず、あるいはハロウィンや秋といった季節もののタイトルも揃っているし、絵本もあれば、大人向けに毒を含んだタイトルも決して少なくない。
「イベントの機会だからこそ、普段は手に取らないようなタイトルの本を読んでみようかという気になるかもしれないじゃないですか。そういう本に限って子どもでも大人でも、一生つき合えるような本になるというか」
読書しよう、と思い立った時から、すでに思考は自由に飛び回っているもの。だからイベントへ楽しみに、つまり遊びに来ている人たちが、じかに本を手に取れることにはリアル体験としてやはりデジタルにはない、大きな意味がある。
ところで本をたくさん積むのなら、国産のワンボックスでも事足りるとは考えませんでしたか?
「そうですね、たしかに考えたことがなかったわけじゃないんですが、ちょうどベルランゴが(カタログモデルとして)出たところで、移動書店をするならこのクルマだな、って思っちゃったんですよね(笑)」
と、発想と出会いの大事さを物語るエピソードなのだった。ちなみにハリ書房は移動書店という都合上、神保町のお店も土日と月曜のみ営業でイベント出展時は不在のため、事前に確認してから訪れるのがベターだ。