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「すべてのクルマは贅沢品!?」歩行困難で生きるためにクルマを所有していると生活保護が停止されることについて【Key’s note】

身体障害者標識(身体障害者マーク)をクルマに貼り付けているのを見たことがあるだろう(写真はイメージ)

クルマは贅沢品でもあり生活必需品でもある

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「すべてのクルマは贅沢品か」についてです。先日、自家用車は贅沢品であり、所有しているなら生活保護は認められないというケースが報道されました。クルマは人や荷物を快適に運べる実用車としても、そして走りを楽しむ贅沢品としても魅力があるものです。後者としての利用は当然認められませんが、足が不自由などクルマがないと生活できないという方も存在しています。所有者の使用環境を考慮してほしいと願う、木下隆之が思いを語ります。

(写真はすべてイメージです)

クルマは障害のある体の代わりとなる大事な存在という方も多数

先日の朝日新聞に、自家用車を所有していることを理由に生活保護を停止された女性(71)の記事が掲載されていました。どうやらその記事の骨子は、自家用車は贅沢品であり、そのため生活保護の対象者ではないとのことのようなのです。

三重県鈴鹿市に住むその女性は独り暮らしであり、「頚椎症性脊椎症」を患っており、身体障害者1級に認定されているそうです。首や膝に痛みがあり、杖を使っても20mを歩くのに8分ほどかかるそうです。幸いにも膝に負担がかからないことから運転には支障がありません。日用品を買うためには、自家用車が手放せません。生活保護を受けながら、細々とそんな生活を続けていたそうです。ですが、自家用車は贅沢品だから生活保護の対象からはずれると……。

鈴鹿市によると、自家用車は資産とみなされるとのこと。女性が乗っているのは20年前のトヨタ「カローラ」であり、贅沢という言葉の響きとは異ります。市は公共交通機関を使うように求めてきたそうですが、女性は最寄りのバス停までは400mもあり、タクシーも至近距離移動ではきてもらえないことを理由に、処分取り消しの訴訟を起こしたという。自家用車は必要だとの解釈です。

実は僕もレースでのクラッシュが原因で、膝を傷めたことがあります。リハビリによって症状は軽くなったものの、いまだに跛行が残ります。痛みが強い時には松葉杖の助けを借りる必要もあり、それがなければ、それこそ数10mを歩くのが辛い時期もありました。駅のホームを隅から隅まで歩くことができず、北口から南口にタクシーで移動したことすらあったのです。

ですが、着座して運転するぶんには痛みはありません。ですから、その女性の気持ちがとても理解できるのです。怪我をしている身にすれば、自家用車は杖であり車椅子なのです。ですが、それが贅沢品とみなされて生活保護が停止されるのは気の毒に思えますね。

市によると、口頭や文書での指導に女性が従わなかったとしています。弁明のための聴聞会にも欠席したなどとして生活保護を停止したとのことです。聴聞会を欠席したりしなければ、もしかしたら結果は違っていたかもしれません。真意は定かではありませんが、どこかモヤモヤします。厚生労働省も「自家用車所有は維持費がかかり、社会通念上その保有は適当ではない」とのことです。「クルマ=贅沢品」という姿勢です。

まあ、クルマはある意味では遊びの道具であり、贅沢品の場合もなくはないのかもしれませんが、件の女性のように生活にはなくてはならないものでもあります。国民には健全な生活をすごす権利があります。それを維持するために生活保護の制度です。でしたら、女性には生活するために大切な自家用車の所有を認めた上で生活保護対象にしてあげてほしいものだと思いました。

その訴訟が続いているのが、日本最大のモータースポーツの町、鈴鹿市だというのが皮肉ですね。

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