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21歳若者がホンダ「S660」でレース参戦したきっかけは?「アルト」勢に負けないチューニングのポイントを見せてもらいました

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TEXT: 佐藤 圭(SATO Kei)  PHOTO: 佐藤 圭

  • 阿部選手のS660
  • エンジンはいたってオーソドックスなブーストアップ仕様。HA36のアルトワークスに比べると車体が重いのがネックではある
  • 足まわりはタナベの車高調を使っている。ハイグリップラジアルとの相性がよく、価格もそこそこリーズナブルでお気に入りだ
  • タイヤはSタイヤが禁止されているのでハイグリップラジアル。ブレーキはオートクラフトのキットで容量をアップしている
  • 人生で初めて買った社外パーツが柿本のマフラー。センター出し&砲弾サイレンサーのルックスとスポーティな排気音が魅力だ
  • S660では定番のインタークーラースプレー。1周のアタックではなく周回数を重ねるレースなのでタンクは大きめをチョイス
  • スプレーのスイッチはセンターコンソールに。吸気温度をいかに下げるかが重要で、隣にはインタークーラーの電動ファンも
  • 本来は幌などを収納するためのスペースだが、ラジエターから熱を効率よく抜くため、思い切って取り外すことにしたという
  • フロントが軽いためエアロパーツでダウンフォースを高める。リップとカナードに付いた無数の小傷が熱い走りを物語っている
  • エンジンフードのダクトは某プロショップのデモカーに付いていた試作品で、阿部選手が手に入れることができたのは偶然とか
  • 万が一のクラッシュから自分自身を守るロールケージ。パイプの曲げが工夫されており乗り降りにはほとんど支障がないそうだ
  • 今年の東北660ターボGP・第2戦で念願の初優勝。12月にエビスサーキット西コースで行なわれる最終戦でも連勝を狙う
  • 阿部選手が「引き出しが増えた」と自認する、東北660選手権・4クラス仕様のミラ。東北660選手権でも初めての優勝を目指す
  • 同世代の仲間たちと東北660耐久レースにもエントリー。スプリントレースとは違った楽しさ、難しさがあり勉強になるという
  • 通勤車のKeiワークスでもサーキットを走る。写真はエビスサーキットのスライドパーク。冬のスノートライアルはこのクルマでエントリー
  • 高校では野球部でピッチャーだったという阿部選手。3カテゴリーの掛け持ちは大変だが、楽しさがそれに勝っていると話す
  • 東北660ターボGPが初めて開催されたスポーツランドSUGO戦。記念すべきラウンドで初優勝を飾ったのも何かの巡り合わせか
  • 初めての愛車であるS660。チューニングも好きなので改造範囲がある程度は広い、東北660ターボGPが自分には合うと分析する

ホンダ「S660」でサーキット通いスタート

今回の主人公である阿部優翔選手が軽自動車のレース「東北660シリーズ」に興味を持ったきっかけは、高校生のときにYouTubeで見た、東北660ターボGPを紹介するムービーだった。バイクとクルマが好きな父親の元で育てられ、子どものころからサーキットには親しんでいたが、ドライバーを目指したのはまさにその瞬間だ。免許を取得するとすぐ走行1万kmのホンダ「S660」を購入し、就職すると同時にサーキット通いが始まったという。

手に入れたS660で参戦するも成績が伸び悩む

初めて東北660シリーズを経験したのは2021年6月のフリー走行。併催された東北660ターボGPを間近で見て、次戦からの参戦を決意した。本気で走るからには安全装備が不可欠と考えた阿部選手は、プロショップ「オートリサーチ米沢」でロールケージを装着。同年11月に開催された第3戦でデビューを果たし、走行会では味わえない緊張感にどっぷりとハマったそうだ。

阿部選手

動画で見ていたドライバーたちと同じ舞台で競い合い、プライベートでの交流も進み生活はクルマ一辺倒に。阿部選手がエントリーしている3クラスは社外タービンが使用できず、NAの東北660選手権ほどではないにせよ戦闘力の差は大きくない。走り込んで練習したりセッティングを煮詰めてみたものの、なかなか上位陣のドライバーに追い付くことは難しかった。

大きな転機となったのはオートリサーチ米沢の「ミラ」を駆り、東北660選手権の4クラス(2ペダル限定)に参加したことだ。エンジンはNAで駆動方式もFF、トランスミッションはCVTと特性はまるで違う。最初こそ戸惑いもあったがマイカーとは違う曲げ方、タイムの出し方を学んだことで引き出しが飛躍的に増えたと話す。

また普段から仲のいい山形大学の自動車部と一緒に、東北660耐久レースにも参戦中だ。こちらではタイヤを傷めない走り方や安定したラップの刻み方、そして自分に特化したセッティングではなくともタイムを出し、次のドライバーへ確実にバトンを渡すことの大切さを知った。

NAエンジン車や耐久レースで得た経験を存分に発揮

それらの経験をスポンジが水を吸うように吸収し、大きな実を結んだのが2023年8月20日の東北660ターボGP・第3戦だ。予選は大ベテランの山口吉明選手に次ぐ2番手だったが、決勝レースでは見事に逆転し憧れの舞台で初優勝を飾る。

阿部選手はこう語る。

「ターボGPに限らず東北660では先輩方に教えてもらうことが多く、今回は山口選手にもクリーンで楽しいバトルをしていただきました。コース上では本気で戦うけどクルマを降りれば仲間、という雰囲気で毎回レースを楽しんでいます。この勢いでターボGPは3クラスのシリーズチャンピオンを狙いたいですね」

東北660選手権の4クラスもHA36型スズキ「アルト」が上位を占めるなか、開幕戦と第2戦で表彰台を獲得しシリーズチャンピオンに望みを繋ぐ。21歳にして3つのカテゴリーにフル参戦し、目覚ましい成長を続けている阿部選手。いま東北660でもっとも注目すべき若手ドライバーは彼かもしれない。

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  • 佐藤 圭(SATO Kei)
  • 佐藤 圭(SATO Kei)
  • 1974年生まれ。学生時代は自動車部でクルマ遊びにハマりすぎて留年し、卒業後はチューニング誌の編集部に潜り込む。2005年からフリーランスとなり原稿執筆と写真撮影を柱にしつつ、レース参戦の経験を活かしサーキットのイベント運営も手がける。ライフワークはアメリカの国立公園とルート66の旅、エアショー巡りで1年のうち1~2ヶ月は現地に滞在。国内では森の奥にタイニーハウスを建て、オフグリッドな暮らしを満喫している。
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