ホンダ「S660」でサーキット通いスタート
今回の主人公である阿部優翔選手が軽自動車のレース「東北660シリーズ」に興味を持ったきっかけは、高校生のときにYouTubeで見た、東北660ターボGPを紹介するムービーだった。バイクとクルマが好きな父親の元で育てられ、子どものころからサーキットには親しんでいたが、ドライバーを目指したのはまさにその瞬間だ。免許を取得するとすぐ走行1万kmのホンダ「S660」を購入し、就職すると同時にサーキット通いが始まったという。
手に入れたS660で参戦するも成績が伸び悩む
初めて東北660シリーズを経験したのは2021年6月のフリー走行。併催された東北660ターボGPを間近で見て、次戦からの参戦を決意した。本気で走るからには安全装備が不可欠と考えた阿部選手は、プロショップ「オートリサーチ米沢」でロールケージを装着。同年11月に開催された第3戦でデビューを果たし、走行会では味わえない緊張感にどっぷりとハマったそうだ。
動画で見ていたドライバーたちと同じ舞台で競い合い、プライベートでの交流も進み生活はクルマ一辺倒に。阿部選手がエントリーしている3クラスは社外タービンが使用できず、NAの東北660選手権ほどではないにせよ戦闘力の差は大きくない。走り込んで練習したりセッティングを煮詰めてみたものの、なかなか上位陣のドライバーに追い付くことは難しかった。
大きな転機となったのはオートリサーチ米沢の「ミラ」を駆り、東北660選手権の4クラス(2ペダル限定)に参加したことだ。エンジンはNAで駆動方式もFF、トランスミッションはCVTと特性はまるで違う。最初こそ戸惑いもあったがマイカーとは違う曲げ方、タイムの出し方を学んだことで引き出しが飛躍的に増えたと話す。
また普段から仲のいい山形大学の自動車部と一緒に、東北660耐久レースにも参戦中だ。こちらではタイヤを傷めない走り方や安定したラップの刻み方、そして自分に特化したセッティングではなくともタイムを出し、次のドライバーへ確実にバトンを渡すことの大切さを知った。
NAエンジン車や耐久レースで得た経験を存分に発揮
それらの経験をスポンジが水を吸うように吸収し、大きな実を結んだのが2023年8月20日の東北660ターボGP・第3戦だ。予選は大ベテランの山口吉明選手に次ぐ2番手だったが、決勝レースでは見事に逆転し憧れの舞台で初優勝を飾る。
阿部選手はこう語る。
「ターボGPに限らず東北660では先輩方に教えてもらうことが多く、今回は山口選手にもクリーンで楽しいバトルをしていただきました。コース上では本気で戦うけどクルマを降りれば仲間、という雰囲気で毎回レースを楽しんでいます。この勢いでターボGPは3クラスのシリーズチャンピオンを狙いたいですね」
東北660選手権の4クラスもHA36型スズキ「アルト」が上位を占めるなか、開幕戦と第2戦で表彰台を獲得しシリーズチャンピオンに望みを繋ぐ。21歳にして3つのカテゴリーにフル参戦し、目覚ましい成長を続けている阿部選手。いま東北660でもっとも注目すべき若手ドライバーは彼かもしれない。