1200万円超えの高プライスの理由は、わかりやすいカッコよさ?
大型車天国であるアメリカながら、その反動からなのか近年では「カビネンローラー」あるいは「バブルカー」とも呼ばれる欧州製マイクロカーの人気が、一部のコアなファンの間で爆発。さらに日本のクラシック軽自動車なども、コレクターズアイテムとして認知され始めているようだ。
しかし、フリスキーは珍車中の珍車。しかもこのほど「Monterey 2023」オークションに出品されたフリスキーは、もともと「ファミリー・スリー・クーペ」として生産されたのを、前所有者のもとで巧みに3輪コンバーチブルに改造された、いわばスペシャルものの1台である。
この個体は入念なレストアが施され、いかにも1950年代的なパステルブルーのペイントは、オリジナルはミケロッティによるデザインである魅力的な外観をさらに引き立てている。また「ファミリー・スリー」以前から作られていた4輪版「スポーツ・コンバーチブル」から拝借した「Frisky Sport」のロゴバッヂなども、レストアに際してディテールにこだわったことを如実に示している。
ヨーロッパでは「VWタイプ1」や「フィアット600」、「BMCミニ」などの本格的な量産小型車の台頭により、これらのマイクロカーは1960年代に入ると急速に衰退を強いられてゆく。フリスキー社も何度かの会社更生を試みたのち、生産開始からわずか2年後にあたる1961年をもって、廃業を余儀なくされてしまう。それゆえ、熱心なファンによって運営される「フリスキー・レジスター」によると、現存しているのは全タイプを合わせても75台のみとされている。
「このフリスキーの芸術的なコンバーチブル・コンバージョン車は、もとより希少なモデルにユニークな次元を加えたことにより、魅力的なカンバセーション・ピース(話題のきっかけ)となり、ガレージに楽しくて珍しいアクセントを加える!」と公式オークションカタログでうたいあげたRMサザビーズ北米本社は、出品者である現オーナーとの協議の結果、3万ドル~4万ドルのエスティメート(推定落札価格)を設定。さらに今回の出品を「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」で行うことを決定した。
この「リザーヴなし」という出品スタイルは、たとえ出品者の意にそぐわない安値であっても落札されてしまうリスクもあるいっぽうで、特に対面型のオークションでは確実に落札されることから会場の空気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むというメリットもある。
こうして迎えた競売では、リスクを冒した賭けが成功したのか、エスティメート上限のさらに2倍以上に相当する8万4000ドル。日本円に換算すれば約1240万円という、マイクロカー、しかも改造車とは信じがたいほどのプライスでハンマーが落とされることになった。
これほどの高価格となった理由は、圧倒的な希少性もさることながら、モディファイの仕上がりまで含めて、この種のマイクロカーとしては異例ともいえるスタイリッシュさを誇っていることも、重要な要素となったものと思われる。
2010年代以降、高騰が続く国際クラシックカー市場において評価軸となっているのは、分かりやすい格好良さであると思われる。そして、たとえこのようなマイクロカーであっても、その普遍の法則は変わらないようなのである。