運転上手を印象付けられる技術が備えられている
筆者のような昭和に運転免許を取った時代のドライバーなら、教習車はマニュアル。初めて乗ったクルマもマニュアル車だったと思う。ちなみに筆者の1代目の愛車はいすゞ「117クーペ」のマニュアル。2歳下のカミサンはマツダ「RX-7」のマニュアル車だった。しばらくしてできた彼女の愛車は日産「バイオレット」のAT車だったと記憶しているが、運転させてもらうと、AT車のアクセルワークに慣れていなかったため、ぎくしゃくした走りになって大恥をかいた苦い思い出がある。きっと「運転下手男」だと思われたに違いない。とはいえ、慣れたマニュアル車ならスイスイ運転できたのだが……。
MT車を上手く乗れたら男としてカッコいい
そんな昔の話はともかくとして、現在の国産車の2ペダルAT車の比率(軽自動車と輸入車を除く)は99%にもなっている。トヨタ「カローラスポーツ」も2022年10月の一部改良でMTグレードが消滅。それも日本におけるMT需要の低迷が原因だ。MT車を好む運転好き、運転上手なユーザーが多い欧州などとはMT需要は大きく違う。
しかし、昭和のモテ男の条件のひとつでもあったMT車の「運転上手」、「MT車を乗りこなすマニュアルミッションさばき上手」は、もしかすると今でも通用するかもしれない。マニュアル車なのにスムーズな運転を披露できれば、「男としてカッコいい♡」という印象を与えられるはず。とくにモータースポーツに興味があるような女子はイチコロかもしれない。
思い出せば1990年代、デートドライブでユーノス「ロードスター」のマニュアル車を駆って箱根や伊豆の山道をジェットコースターのように飛ばした経験があるが、隣の女子ウケは抜群だったのだ。
つまり、今では超少数派のMTを乗りこなせれば、クルマの熟知感ある、デキる男、彼氏、ダンナとして尊敬されるかもしれないし、逆に、マニュアルミッションを手足のように扱える女子は、男子の憧れの存在にもなりうるわけだ。とくに自らAT車(AT限定免許取得者)を運転している女子ほど、マニュアルミッションさばき上手男に引き付けられる可能性大だ。それを男女間の恋愛のジェットコースター理論ならぬ「マニュアルミッションの魔法」と呼んでもいい。
だが、MT車がモテ男のツールのひとつだと仮定したとして、かつてMT車に乗っていた人でも、クラッチペダルの重さ、不適切なシフト操作によるギクシャク感、坂道でのズリ下がりなど、今ではAT車慣れした身として心配が尽きないかもしれない。
最近のMT車はAT並みに乗りやすい
しかし、それは今どきのMT車を知らないだけ。坂道発進でズリ下がりを防止してくれる機能から、クラッチおよびシフト操作に合わせて最適なエンジン回転数になるよう制御(自動ブリッピング)してくれる機能、変速時に目標のギアに最適となるよう自動でエンジン回転数を制御し、スムーズな変速を実現させてくれる機能、エンスト防止機能などが盛り込まれたMT車もあるのだ。
まず、MT車でアセりがちな坂道発進だが、ESC(エレクトリックスタビリティコントロール)などと呼ばれる横滑り防止装置付きのMT車ならヒルスタートアシストという機能が付いていたりして、上り坂を検知するとESCを利用してブレーキペダルを踏まなくても3秒程度、自動的にブレーキが保持されるのだ。そのブレーキが保持されている間にクラッチを踏み、ミートさせれば坂道でズリ下がることはないというわけ。
この機能は軽自動車のMT車にも付いている。例えば、アウトドア女子にも大人気のスズキ「ジムニー」にも、ヒルホールドコントロールとして全グレードに標準装備。女子ウケ抜群のライトウェイトオープンスポーツのマツダ ロードスターにもヒルローンチアシスト(HLA)という同機能がMT、AT車ともに用意されているから、MT車の坂道アレルギーは解消され、ドライブデート中の急な坂道での一時停止でもアセらずに済む。
シフトダウン時にブリッピングをしてくれる
さて、MT車を運転していて大きな見せ場になるのが、スポーティな運転でのシフトダウン時に最適なエンジン回転数になるよう行うヒール・アンド・トゥである。昭和のMTドライバーなら、何度も練習したかもしれない、右足でブレーキとアクセルのブリッピングを同時操作するエンジンの回転合わせである。しかし、AT慣れした現代のドライバーが、それをスムーズかつ的確に行うなんて、至難の業。
それは自動車メーカーも百も承知で、2008年にはすでに日産「フェアレディZ」が世界で初めて、シフトダウン時のブリッピングを自動で行ってくれるシンクロレブコントロールを開発し搭載。ブリッピングはクルマ任せで、ドライバーはブレーキコントロールに集中すればよくなるわけだ。最新のフェアレディZのMT車(シンクロレブコントロール)、トヨタ「スープラ」に追加されたMT車(i-MT)にも付いている。
ホンダ シビックのタイプRはレブマッチシステムという名称で、変速時に目標のギアに最適となるよう自動でエンジン回転数を制御し、スムーズな変速による車両挙動の安定化を実現させる機能を備えている。習熟が求められるヒール・アンド・トゥでの回転数合わせを自動化することで、ドライバーはよりステアリングやブレーキの操作に集中することが可能になる、と説明されている。
彼氏、ダンナとして「運転上手」を印象付けられる、最新技術や制御を盛り込んだ操作楽々、坂道発進やエンストも怖くない、車種によっては自動ブリッピングまでしてくれるMT車を今一度(あるいは初めて)乗りこなし、カッコいいところを見せつけてはどうだろう。男がアガる可能性大である。