技術を先取りして市販化するのが得意なホンダ
ホンダは当時世界一厳しいアメリカの排ガス規制をクリアしたエンジンをつくったり、VTECを作り出したり、技術を先取りし、いち早い高度技術の市販化を得意としている。しかしホンダは、そのいち早くという部分が悪い方向に行ってしまったことも、ないわけではない。今回は「ちょっと早過ぎたよねそのクルマ」、というホンダ車をいくつか紹介していこう。
早過ぎた技術が裏目に出てしまうことも
ホンダというのは凄いメーカーだ。当時世界一厳しく、これに合致するエンジンをつくることはできないのではといわれたアメリカの排ガス規制、マスキー法の規制値をはじめてクリアしたCVCCエンジンをつくったのはホンダである。高回転型カムでは低回転が弱く、低回転型カムでは高回転でのパワーが期待できないというレシプロエンジンの弱点をクリアしたVTECをつくり出したのもホンダだ。現在そのVTECは、環境面での性能向上にも役立っている。
そんな技術の先取り、いち早い高度技術の市販化を得意としているホンダなのだが、そのいち早くという部分が悪い方向に行ってしまったことも、ないわけではない。今回はちょっと早過ぎたよねそのクルマ、というホンダ車をいくつか紹介していこうと思う。
インサイト/CRーZ:ハイブリッドだがいまひとつメジャーになれなかった
1997年の東京モーターショーで発表されたコンセプトカーをベースとした「インサイト」は、1999年9月にデビュー。トヨタ「プリウス」が1997年12月にデビューしてから1年半後のことだった。インサイトのハイブリッドシステムはパラレル式で、エンジンが主動力源、モーターはそのエンジンをアシストしつつ、巡航時など低負荷のときには余剰エネルギーを発電機として回収する、というもの。軽量なアルミボディや樹脂フェンダーなどを採用し、空気抵抗低減を実現したボディなどの効果で、10・15モード燃費は35.0km/Lという数値を達成していた。
パラレル式ということからトランスミッションは5速MTとATをラインアップ。2010年にはハッチバックボディを持つスポーツタイプ、6速MTを搭載した「CRーZ」がデビューし、環境性能が高いマニュアルトランスミッションのクルマとして、発売当時は人気となり、日本カー・オブ・ザ・イヤーも受賞している。
しかし、インサイトは乗車定員2名であることがネックとなって販売台数は伸び悩んだ。CRーZはスポーツタイプといいながらも、ICE搭載車と比べたときの鈍さから人気は低迷。シルエットがかつての名車、「CRーX」に近いものだったことから、何かと比較されがちだったということもあっただろう。マイナーチェンジでモーターアシストを全開にするプッシュボタンが追加され、それは結構楽しかったのだが、これが発売当初から装備されていたら結果は違っていたのかもしれない。
S-MX/エレメント:車中泊ブームが遅すぎた
1996年にデビューした「S-MX」は運転席側1枚、助手席側2枚という1ー2ドアを採用したコンパクトミニバン。4人乗りと5人乗りが用意されていたが、4人乗りのフロントシートはベンチタイプで、後席と合わせてフルフラットとすることができた。そのためいまの目で見れば、車中泊に最適、となるのだが、発売当時は車中泊が一般的ではなく、どちらかというとカー○○○に使いやすい、というイメージが強かった。後席横にあった箱ティッシュがすっぽり収まるスペースも、そのイメージを強調していたように思う。しかしそのスペースも含めて、車中泊仕様車と考えたときの完成度は高い。まさに早過ぎたクルマの1台といえるだろう。
「エレメント」はホンダ・オブ・アメリカが開発し、日本では2003年から販売された、10フィートのサーブボードを積むことができるSUVだ。ドアは左右ともに観音開きとなっているために荷物の積み下ろしがしやすく、またカーゴスペースにワンちゃんを乗せて旅がしやすいクルマとしても知られていた。これもいまの目で見れば、非常に使いやすいトラベルカーなのだが、当時観音開きのドアは人気がなく、また樹脂フェンダーの見た目が安っぽいということから販売台数は低迷。2005年には輸入が打ち切られてしまっている。