シートに座った瞬間からワクワクする
さてようやくだがアバルト695トリビュート131ラリー、試乗前にそのルックスをじっくりと観察すれば「なるほど、たしかにトリビュートされている」と感じる。角ばってこそいないもののブラック塗装のフェンダーアーチからフロントスポイラーにつながるデザイン。失礼ながら世に見受けられるポリバケツブルーと揶揄したくもなるクルマとは雲泥の差。131ラリーをイメージしたアズーロのエクステリアカラーにサイドスカートをブラック仕上げとするあたり、マニア心をおさえている。
マフラーは左右に縦型2本のレコードモンツァを装着していた(アバルト695として、縦になったレコードモンツァは初!)。 十分にその姿を目に焼き付け満足したので、さっそく乗り込む。わくわくッ。
かけ心地の良いシートに身を預け、シートポジションを合わせるも、イタポジ(イタリアンポジション)なところ、いいねえと思ってしまう。足元をペダルに合わせると、ステアリングが遠くなる……ああなんで、もう少し腕が長くなるように成長してこなかったのだろうと自分をくやみつつ、理想はチルトだけではなく、テレスコピック機能もほしいところ。
最近はプッシュ式のエンジンスタートばかりだが、久々にキーを握りしめエンジンを掛ける。勇ましい音に焦る気持ちを落ち着かせながら、まずはメーターを確認。左がタコメーター、真ん中にスピードメーター、右には瞬間燃費消費量が表示される。
インテリアは、ダッシュボードに手触りの良いアルカンターラをあしらっていた。さらにブルーのステッチ処理や、ヘッドレスト一体型サベルト製ラリー専用スポーツシートのヘッドレスト部には「131 Rally」の車体を象ったインサート入りとなっている。 もろもろのチェックを済ませ、再びペダルを踏み込むと自然な配置であるから、操作に迷うことはなさそうだ。
ギアを1速に入れ込みクラッチをそっと繋ぐと、アイドルアップしスルスルと動く。これは、初心者でも乗りやすいかも! と思いつつ、まずはノーマルモードで走ってみる。 40km/hで流していても、適度に引き締められた足まわりは、KONI製FSDショックアブソーバー+ハイパフォーマンスコイルスプリングを装着していることとボディ剛性の高さから、交差点を曲がるだけでも楽しい。
ブレーキは、ブレンボ製4ポッドフロントブレーキキャリパーを採用していることもあり、意図したとおりに操れるのが嬉しい。それから、球体のシフトノブの握りがよく、意味もなくギアチェンジをしたくなるのは、久々の感覚だった。 ノーマルモードもそこそこにそろそろスコーピオンモードを試す。
スコーピオンボタンひとつで「豹変」する
スコーピオンモードは、ダッシュボード中央、ハザードの左に用意されているサソリのボタンを押すだけで、最大トルクが230Nm/2000rpmから250Nm/3000rpmに変更され、マフラーのバルブ開閉が行われることで排気音が野太くなる。
前が空いたタイミングで、スコーピオンモードに切り替え、1速~2速で少しだけ踏んでみる。低回転時では、鈍い針の動きがいきなり跳ね上がるとターボがドーンと効く。あっという間に法定速度に達してしまった。レコードモンツァの音も大きくなり、やる気にさせる。
コーナーリングもまるでスロットカーのように、狙い通りのラインをグイグイと引っ張っていく感覚がとにかく楽しかった。 小学生の作文以下で申し訳ないが、「ただ、ただ楽しい」。この言葉に尽きる。これでサーキットか峠を攻めたら面白いんだろうなぁ……と思いつつ、約60kmの試乗を終えて帰路へと向かう。
会社に戻りたくないという気持ちに駆られながら普段は通らない道を走り、少しでも乗る時間を増やしたいと足掻いていると、偶然知人を見かけたので、安全な場所へクルマを止め、声をかけた。
「これなんていうクルマですか? アバルト? へぇ~初めて聞きました。小さくて丸いけど、格好良くまとめられていますね。座ってもいいですか? わあ、すごい! このシートめっちゃいいですね。カラダをガッチリ固定してくれる感じで、運転も楽しそう」
と喜んでくれた。クルマに興味がない人でも魅力的に見えるようだ。
ちなみに、トリビュート131ラリーは世界限定695台のうち、200台が日本に割り当てられ、そのうちの右ハンドルが100台、左ハンドルが100台となっていた。残念ながら完売してしまい、もう中古で購入することしかできない。
だが、もしも気になっている方がいればオススメをしたい1台だ。なぜならフィアット&アバルトのチンクエチェントのガソリンモデルは、今年度中に生産終了が発表されている。少し古い言い方だが「乗るなら今でしょ」なモデルであることは間違いない。