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ソ連製「BMW」があった!? 試作車「S1」は直6搭載で「東側陣営の優れた技術のアドバルーン」として制作されました

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TEXT: 長尾 循(NAGAO Jun)  PHOTO: 長尾 循/AMW編集部

アイゼナハ工場のBMW技術者たちの意地が込められたスポーツカー

今回ご紹介する「S1」は、アフトヴェロ-BMW時代のアイゼナハ工場で作られたプロトタイプのスポーツカーだ。政治的な体制や誰がスポンサーなのかという問題は別にして、いつの時代も技術者たちは目の前の課題を解決しより良い製品を作ろうとする。ソ連軍政下であってもアイゼナハ工場で働くBMWの技術者たちは、ロードカーの再生産と並行して高性能なスポーツモデルを開発してみせたのだ。

戦前にモータースポーツの世界で大きな成功を収めたスポーツカーとして有名な「328」。もともとその328もこのアイゼナハ工場で作られていたため、直列6気筒エンジンなどのノウハウがこのBMW S1にも色濃く反映されている。逆にボディは大量の軽め孔の開けられたメインフレームとチューブラーフレームが組み合わされた骨格を、アルミの外皮で覆った独自の流線形デザインだ。

レースで優勝しロードバージョンも展示されたが幻に終わる

はたしてこのBMW S1は、1949年にデッサウとザクセンリンクで開催されたふたつのレースに出場し、いずれも優勝したと伝えられている。もちろんデッサウもザクセンリンクも当時は東ドイツのサーキット。終戦から間もない時代のレースゆえ残された資料も乏しく、開催日自体も資料によって諸説あるが、いずれにせよこのBMW S1が優れたパフォーマンスを備えていたことは確かだろう。ただその栄誉は、戦禍を生き延びたBMWの技術者ではなく、あくまでも在独ソ連軍政府のものであったろうが……。

レースの後、BMW S1は公道走行可能な2シーターに改造され「東側陣営の優れた技術のアドバルーン」として、1950年にライプツィヒで開催された展示会で展示された。もちろんこのアフトヴェロ-BMW S1「ロードカー」が東ドイツ市民のために生産されることはなかった。

* * *

ドイツのミニカー・ブランド、オートカルトが1/43スケールでモデル化したのは、この2シーター仕様だ。歴史に翻弄されたBMW技術者たちの数奇な運命を、小さなミニカーを通して学ぶ秋の夜長。

■Auto Cult(オートカルト)1/43レジン製ミニカー
車名:BMW S1 1949 シルバー
価格:2万8600円(消費税込)
問い合わせ:国際貿易 https://www.kokusaiboeki.co.jp

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  • 長尾 循(NAGAO Jun)
  • 長尾 循(NAGAO Jun)
  • 1962年生まれ。デザイン専門学校を卒業後、エディトリアル・デザイナーとしてバブル景気前夜の雑誌業界に潜り込む。その後クルマの模型専門誌、自動車趣味誌の編集長を経て2022年に定年退職。現在はフリーランスの編集者&ライター、さらには趣味が高じて模型誌の作例制作なども手掛ける。かつて所有していたクラシック・ミニや二輪は全て手放したが、1985年に個人売買で手に入れた中古のケーターハム・スーパーセブンだけは、40年近く経った今でも乗り続けている。
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