究極の追求に終わりなし
2007年のデビュー以降、ほぼ毎年変更が施されてきたR35「GT-R」。1世代でアップデートを重ね続ける異例のモデルである。これまでに前期/中期/後期とどのように変化を遂げてきたのか、その変遷をあらためて辿ってみたい。
(初出:GT-R Magazine 171号)
速さに特化した初期モデル
BNR34の生産終了から5年、2007年12月に鳴り物入りで登場したR35型「NISSAN GT-R」。新開発の3.8L V6ツインターボエンジンに加え、2ペダルトランスミッションを車体後方に搭載する独立式トランスアクスルレイアウトの採用など、第2世代までの「スカイラインGT-R」とは一線を画すパッケージで世界中に衝撃を与えた。
初期モデルのMY07~08は、当時の国産車としては断トツの480psを発生。ドイツ・ニュルブルクリンクを舞台に量産車最速を目指して開発されただけあり、その乗り味はレーシングカー並みに硬派だった。今となっては荒削りとも言えるが、それが逆に新世代GT-Rのインパクトとして広く伝わった。
デビューからわずか1年後にMY09へとアップデート。最高出力を485psへとアップし、最高速向上のためにフロントのナンバーフレームを廃止して全長を変更するなど速さへのこだわりを強く感じさせた。北米輸出がスタートした2008年春の時点ですでにフロントスプリングの精度見直しやTCM(トランスミッションコントロールモジュール)の最適化などにより走りの質を向上。MY09ではショックアブソーバーの構造や前後バネレートの変更などで、ハンドリングが整えられている。
走りの質感は徐々に洗練されていく
これにより初期モデルよりもクイックなハンドリングを実現し、クルマがひと回り小さく感じるような一体感が生まれた。さらに、走りに特化した2シーターのスペックVが追加されたのもMY09からであった。
2009年にはMY10が登場し、トランスミッションの弱点克服(冷却性能向上)やショック/スプリングの精度を高め、リアのラジアスロッドブッシュの剛性を向上するなど、ドライバビリティをさらに一歩引き上げている。
デビューから3年目に当たる2010年には、外観にも変更を加えた初のマイナーチェンジを敢行。フロントバンパーにデイライトが組み込まれたMY11以降は中期型と呼ばれている。前後バンパーやディフューザーを変更することで空力性能を見直し、ショック/スプリングの仕様変更に加えてフロントロアアームの改良でレバー比も変えるなど大幅に手が入れられた。
また、エンジンの最高出力もブースト圧の変更などで530psへとアップ。見た目のブラッシュアップにプラスして、初期型に対して速さもワンランク上へと格上げされた。MY10までの初期型の時点から年を追うごとに「クルマが小さく感じられる」ようになり、MY11でその傾向はさらに強まった。R35の初代開発責任者を務めた水野和敏氏は、2007年のデビュー時に「3年後に本当の姿を見せる」と語っていたが、その言葉の真意はMY11の登場で証明された。
さらに、その1年後にはMY12を発表。驚くことにエンジンパワーは20ps上乗せされて550psに。市販車の常識を覆す左右非対称セッティングのサスを採用し、右ハンドル仕様のコーナーウエイトをシビアなレベルまで整えた。
これらはすべてニュルでのタイムアップを実現するために投入された施策で、続くMY13でも同様の方向でさらに走りが煮詰められた。速さは確実に向上したものの、それとは引き換えにサーキットでの限界走行ではややピーキーな挙動に。
2013年4月からは田村宏志氏(現ブランドアンバサダー)がR35の商品企画責任者に着任。サーキットでの速さを含めて基準車ですべてをカバーしてきたMY13までの手法から、快適性の「GT性能」と速さの「R(レーシング)」を明確に分け、前者を基準車、後者を新設定のGT-Rニスモに振り分けることでR35の進化に新境地を切り拓いた。