12気筒なら、ショーファー・カーも「ファン・トゥ・ドライブ」になり得る?
話題はちょっと横道に逸れるが、筆者は社会人としてのスタートから、ロールス・ロイス(以下R-R)/ベントレーとは密接なかかわりを持ってきた。また、長らくキュレーションを担当していたR-R/ベントレー専門の私設博物館「ワクイミュージアム」では、2代目センチュリーとほぼ時を同じくしてデビューしたR-RのV12サルーン「シルヴァーセラフ」を社用車として長期にわたって使用していたこともあって、同じV12を搭載する同年代のセンチュリーには、個人的にもとても興味があったのだ。
今回、テストドライブの機会を与えていただいた個体は2008年型ということで、6速ATに移行してからのモデル。フロアシフト車で選択可能なドアミラー仕様で、同じくオプション設定されていた本木目+本革巻きステアリングホイールを装備。シートも全席本革レザー仕様とされるなど、センチュリーとしてはかなりパーソナル色の強い個体である。
シートに張られるレザーハイドは、とても繊維の細かい上質なものであるのは間違いないのだが、革シボがほとんどないせいで少々滑りやすいのが難点と言えば難点。また、トラックのようにシートに組み込まれたサスペンション機能が、乗り込むときや悪路では上下にブワンブワンと全身を揺らしてくることにも、いささかの違和感を覚えてしまった。
それでも、念願のV12センチュリー初試乗である。気を取り直して、いよいよエンジンに火を入れることにした。
「クゥゥー」という重々しいクランキング音のあと「シュワーン」と軽快に始動し、そのあとはほぼ無音のままアイドリングに入る。そしてスロットルを踏み込んで走り出すと、ちょっと神々しくも感じられてしまう圧倒的なスムーズさを体感させてくれる。
アクセルペダルを深く踏んで2000rpmあたりを超えると、それまでの静寂から次第にV12らしいハミングが立ち上がってくるが、その音量はきわめて小さい。そしてその「ビュワーン」というかすかなサウンドは、R-Rシルヴァーセラフとよく似ている気もした。
スペックシート上の最高出力では、排気量が約400cc大きいシルヴァーセラフの326psに一歩ゆずるものの、車両重量はセンチュリーが約300kgも軽い。どちらも動力性能が重要視されるたぐいのクルマではないものの、公道で体感できるパフォーマンスは同等以上と断言してよいだろう。
いっぽうフロア仕様の6速ATについてだが、セレクター基部のデザインや材質が同時代のトヨタ量産車と大差なく、ちょっと興ざめの感がなくもない。でも肝心の変速マナーは秀逸で、シフトショックなどみじんも感じさせずシームレスに変速する。またポルシェのティプトロニックのように、前方に押すとシフトアップ、後方に引くとシフトダウンする機能は、この種のプレステージカーでは特段必要なものではないのだろうが、それでもV12エンジンの芳醇な味わいを堪能したいがために、ついついマニュアル変速を多用してしまうのだ。
スローでたおやかな乗り味は今となっては大いに楽しめる
いっぽう、R-Rシルヴァーセラフとの志向性の違いがもっとも顕著に表れているのが、シャシーの調律と思われる。
1967年にデビューした初代センチュリーは、世界的にも比較的早い時期からエアサスを導入した先達のひとつ。もちろんこの2代目でもエアサスが採用されているが、さすがに40年の歴史ゆえなのか、とても上手く練り込まれたセットアップとなっている。
ロールはかなり深いが、その分乗り心地はソフト。でもダンピングは充分に効いており、ロードノイズやハーシュネスの遮断についても、シルヴァーセラフに勝るとも劣らない。
ただし、ステアリングギヤ比はかなりスローに設えられていることにくわえて、強めのアンダーステアを発生させることも相まって、曲率の小さなコーナーが続くとけっこう忙しい操作を強いられる。またキックバックを最大限おさえるために、ステアリングホイールのグリップから得られる路面情報は、かなり限られたものとなる。
R-Rシルヴァーセラフは、当時の親会社であり商品企画にも影響力を有していたBMWの意向だったのか、当時の姉妹車であるベントレー「アルナージ」ほどではないものの、かなりスポーティなステアフィールと弱アンダーステアのハンドリングを披露していた。それに対して、センチュリーのスローでたおやかな乗り味は、あくまでショーファードリヴン・カーとしての穏やかな挙動を優先したということだろう。
だからといって、センチュリーの運転席でのドライブがつまらないかと問われれば、筆者はハッキリと異を唱えたい。V12特有の味わいを愛でつつ、ちょっと古臭いといえなくもない浮遊感のある乗り心地を体感するのは、これはこれで間違いなく「ファン・トゥ・ドライブ」である。
新車としての現役時代には、ショーファードリヴンのための「道具」であることを全力で追求していたセンチュリーながら、V12エンジンを得たことによって、誕生から四半世紀を経た今となってはエンスージアスト心も満たしてくれる、極上のヤングタイマー・クラシックとなったと思われるのである。
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