ごく常識的と思われる価格で落札された
18世紀の欧州で始まった「オークション」というビジネス。当初は絵画などの美術品や書籍の分野で始まったオークションだが、ご存知の通り今では古今東西の名車たちもひとつの大きなコンテンツとなっている。1年を通じ欧米を中心に数多く開催されるそれらモーター系オークションの中から、今回は2023年9月15日にスイスのサンモリッツで開催されたRMサザビーズのオークションに出展されたクルマにまつわる話題を紹介しよう。
生粋のコレクターのもとにあったフィアット500
真のコレクターとは「物心ついたときからすでに何かを集めていて、現在も何かを集めていて、将来的にも何かを集め続けている人」と言えるだろうが、その意味ではスイス在住のダニエル・イゼリ氏は、まさに生粋のコレクターと言えるだろう。イゼリ氏はまだ幼い頃、最初に発した言葉が「クルマ」だったと言うほどのクルマ好きで、その気質は父親がスポーツカーが大好きだったという家庭の環境による部分も大きかったに違いない。そんなイゼリ少年は自由時間のすべてを両親のガレージで過ごし、学校の教科書の代わりに自動車雑誌を暗記するほど読み耽るといった日々を過ごしてきたという。
ダニエル・イゼリ氏が初めてクルマを手に入れたのは今から半世紀ほど前、16歳の時。中古で購入したフォルクスワーゲンを自身の手でレストアして楽しんでいると、それを買った値段より高値で買ってくれる人が見つかり、その次にはMG「ミジェット」で同じように手を入れてそれがまた売れて……。そんなクルマ漬けの日々を送っていたイゼリ氏。やがてお気に入りのクルマたちは手元に残しておくようになり、とくにお気に入りのメイクスであるメルセデス・ベンツ、アルファ ロメオ、フィアットを中心に、気がつけば彼のガレージには膨大な数のクルマやバイク、トラクターにペダルカー(!)たちが集まっていたというわけだ。
自宅ガレージにある膨大なクルマたちが、それぞれどのようなヒストリーを持った個体で、いつどのようにして手に入れ、また現在ナンバーがついていてすぐに走れるのかレストア待ちなのか。彼はコレクションされた膨大なクルマたちの情報を全て覚えているという。しかし近年、彼はその膨大なコレクションの管理・維持をさすがに重荷に感じるようになってきた。そこで、身を切る思いで自身のコレクションの一部をオークションにかけて整理することを決意した。そんな彼のコレクションの中から選ばれた90台(!)が出展されたのが、スイスの美しい山岳リゾート地サンモリッツで開催されたRMサザビーズのオークションである。