夢が詰まっていたマツダのマイクロスーパーカー
バブル期に開発され、1990年代初頭にリリースされた「オートザムAZ-1」、ホンダ「ビート」、スズキ「カプチーノ」は、軽自動車ながらどれもスペシャリティな後輪駆動モデルとなっており、予算が潤沢にあったバブル期ならではの遊び心あふれる車両で、平成ABCトリオとして現在でも高い人気を誇っているのはご存知の通りだ。
フレーム状態で走行が可能な構造だったAZ-1
その3台の中でもミッドシップレイアウトにガルウイングドアというスーパーカー顔負けのスタイルを持って登場したオートザムAZ-1は、その見た目はもちろんのこと、スケルトンモノコックと名付けられたフレームを採用しており、外板パネルはただついているだけ、つまりフレーム状態で走行が可能な構造となっていたのだ。
このような外板パネルが車体に影響しないフレーム構造を持つモデルとしては1987年の東京モーターショーに出展された「MX-04」が元ネタとも言えるが、MX-04は2ローターエンジンを搭載する普通車サイズのものとなっており、源流ではあるものの元になったとは言いがたい。
3種類のボディタイプを提案
ではAZ-1の元になったモデルとは何かといえば、1989年の東京モーターショーに出展された「オートザム AZ-550 スポーツ(以下AZ-550)」であることは間違いないだろう。
同年にスタートしたマツダの販売チャネルのひとつであるオートザムの名前を冠したこのモデルは、車名からも分かるように550ccの3気筒インタークーラーターボエンジンをミッドシップに搭載し、5段ギアボックスと組み合わされるもの。550ccという排気量は、当時は軽規格が改定前で排気量の上限が550ccであったことが影響している。
このAZ-550は、MX-04と同じくシャシーフレームに外板パネルをボルトオン装着することができることがひとつのウリとなっており、モーターショーにはタイプA、タイプB、タイプCという全く印象の異なる3種類のボディが展示されていた。
最も市販版のAZ-1に近いスタイルとなっていたのがタイプAで、AZ-1にも採用されたガルウイングや、イメージカラーに近い赤/グレーのツートーンカラーなどをまとっていた。ただ大きく異なっているのがヘッドライトで、AZ-1は丸型固定ライトであったのに対し、タイプAはリトラクタブルヘッドライトとなっていたのだった。
続くタイプBは、走りに徹したストイックなモデルとされており、ヘッドライトは固定式、ドアもガルウイングを採用せずに派手さはないものの、どことなくオーラを感じさせる仕上がりとなっていた。
そして最後のタイプCは、名前の通りなのかCカーを思わせるデザインとなっており、どことなく「737C」を思わせるフロントマスクとシザーズドアが特徴的な1台で、AZ-550のスポーツ性をアピールしたものだった。
結局3種類のボディを出展したものの、市販されたのはタイプAのみとなったAZ-1だったが、もしバブル景気が続いていたら3種類とも販売したのでは? と思えるほどしっかり作り込まれていたAZ-550は、いまだにAZ-1ファンの中では語り草となっているモデルなのである。