高い評価を受けていたにもかかわらず市販化されなかった幻のモデルたち
これまで毎年のように、数多くのクルマが誕生してきました。記録的に販売台数を伸ばしてモデルチェンジを繰り返し、長寿モデルとなったクルマもあれば、反対に高い評価を受けながらも販売台数を伸ばすことなく1代限りで姿を消したモデルもありました。そうした販売モデルとは別に、1台だけ作られたクルマ、私たちがいくら欲しいと思っていても手に入れることができない、言わば「幻のクルマ」も少なくありませんでした。今回は、そんな記憶に残る「幻のクルマ」を振り返ってみることにします。
モーターショーには数多くのコンセプトカーが登場していた
2023年からジャパン・モビリティ・ショーへと名を変えた東京モーターショー(TMS)には毎回のように、数多くのコンセプトモデルが出展されてきました。その中には現実味の薄い、まさにショーのために誕生したコンセプトモデルもあれば、将来的な市販を目指したモデルも少なくありませんでした。
そんなコンセプトモデルの中で印象に残った1台が、1970年の第17回東京モーターショーに出展されていたマツダ「RX500」でした。同年のTMSにはトヨタと日産、国内ビッグ2からトヨタ「EX7」や日産「270X」といったミッドシップのコンセプトカーが出展されていましたが、2ローターのロータリー・エンジン(RE)をミッドシップに搭載したRX500の方が随分と現実的でした。
と言うのもライバル(?)が、内外装ともに超未来的なデザインだったのに対して、RX500は、鋼管スペースフレームだったことを別にすれば、スタイリングもインテリアも、随分現実的なものに仕上がっていましたし、実験車という役割からカウルワークには各種のプラスチックを使用するなど先行開発車としての「実務」を担当しながらも、同時に当時のマツダが進めていたREのフルラインナップ化についてもフラッグシップという位置づけでもあり、販売に向けては多くの期待がよせられていました。
メカニズムの概略ですが、先に触れたように鋼管スペースフレームのミッドシップに「カペラ」と同じ573cc×2ローターの12Aエンジンを搭載し、サスペンションは前後ともにパイプアームを組み合わせたダブルウィッシュボーン式と、当時のレーシングカーに倣ったパッケージとなっていました。ボディのアウターパネルは樹脂製で、左右のドアはフロントのバルクヘッド上部とフロントウインドウ上部の2カ所にヒンジを持つバタフライドア、そしてヘッドライトはリトラクタブル式で、ミッドエンジンと合わせてスーパーカーの「三種の神器」を全て備えていたことになります。
3リッターV6エンジンをミッドに搭載した4WDのスーパースポーツ
そんなRX500以上に現実的だったコンセプトカーが、第27回となる1987年のTMSに出展されていた日産の「MID4-II」。日産が研究開発を進めているさまざまな新技術を盛り込んだ実験車でしたが、「II」というからにはもちろん「I」もありました。こちらは1985年のフランクフルトショーでお披露目されています。両車は、エンジンをミッドに搭載した4輪駆動という基本パッケージは共通していました。しかしIは日産が当時、主にサファリラリーにスポット参戦していた世界ラリー選手権(WRC)の最上級カテゴリーとして企画が進められていたグループSへの参戦を期して開発されたのに対し、IIはIの反響が大きかったことで、実際にスーパースポーツとして市販すべく開発された、という違いもあり、スタイルも含めて大変更が施されていました。
メカニズム的に見ていくと、Iでは前後ストラット式だったサスペンションはフロントがダブルウィッシュボーンに、リアもマルチリンク式へと変更され、搭載するエンジンも3L V6ツインカム(V6なので4カムシャフト)のVG30DEからIIではツインターボで武装したVG30DETTとなり、搭載方向も横置きから縦置きにコンバートしています。前後を逆に搭載し、プロペラシャフトからセンターデフを介して前後輪を駆動するレイアウトとなり、エンジンの出力は230psから330psにパワーアップ。スタイリングも一新され、スポーツ・クーペからミッドエンジンをアピールするスーパースポーツに変身していました。
市販化に向けた準備が進んでいた
さらによりリアリティの高かったコンセプトカーとして、いっそう期待の高かったモデルが1970年のTMSに出展されたいすゞの「ベレットMX1600」でした。その前年、1969年のTMSに「ベレット1600MX」の名で出展されていたモデルの後継で、より一層市販モデルとしての佇まいを見せていました。
1969年の1600MXはトリノに本拠を構えるカロッツェリア・ギアがデザインとボディ架装を担当し、日本から送られた箱型断面のサイドシルとバルクヘッドで構成されたシャシーにスタイリッシュなボディを構築しています。ただしスタイリッシュではあったものの、当時の国内では少し進み過ぎたデザインとなっていました。
この1600MXをベースに開発されて1970年のTMSでお披露目されたMX1600は、リトラクタブル式のヘッドライトを固定式の4灯式ヘッドライトに変更し、リアの大きなガラスウインドウをベネシャンブラインドに替え、さらにボディパネルをスチールパネルからFRPカウルに変更。いずれも軽量化には大きく寄与していました。エンジンは、「117クーペ」と共通の1.6L直列4気筒ツインカムで最高出力は140ps。それをミッドシップに搭載するシャシーは、基本的にレーシングカー(グループ6のレーシング・スポーツ)のいすゞ「ベレットR6クーペ」と共用していてフロントサスペンションもR6と同様のダブルウィッシュボーン式でしたが、リアサスペンションはストラット式に交換され、市販モデルに向けての準備が進んでいることが窺われました。