常識を覆すドア
クルマのドアといえば、横向きに、あるいは後席用ならスライドして後方に開くもの。これは常識といってもよいのかもしれないですね。けれども世界のクルマの中には、その常識を覆すドアを採用したモデルが、じつは意外なほどに多くあるのです。それは最新のスーパーカーの世界だけにあらず。ここではその珍しくも華やかなドアを持つモデルを紹介していきたいと思います。
ガルウイング・ドア
今では開閉方法の違いによって、あるいはメーカー自身のネーミングによって、細かくその呼び方が異なる「普通の開き方をしない」ドアですが、かつてはそれをまとめて「ガルウイング・ドア」と呼んでいたりしました。ちなみにガルウイングとは、ガル(カモメ)のウイング(翼)を表す言葉で、左右のドアをオープンした時に、前方から見るとカモメが翼を広げたように見えることから、こう名付けられたものであることは簡単に想像できます。
最初にこのガルウイング・ドアを採用したのはメルセデス・ベンツで、それは1954年の「300SL」でのこと。高い剛性を得るために複雑に組み合わされたアルミニウム製のフレームは、結果的に高いサイドシルを形作ることになり、通常の横開きのドアを組み合わせることが不可能だったというのが、その直接的な理由でした。
ちなみにメルセデス・ベンツの子会社であるメルセデスAMGは、この300SLの誕生から半世紀以上を経た2009年、「SLS AMG」で再びガルウイング・ドアを採用。ファンの目を楽しませてくれました。ほかにガルウイング・ドアを採用した例としては、デロリアンの「DMC-12」やパガーニの「ウアイラ」、国産車でもオートザム「AZ-1」のほかに、量産化は叶わなかったものの「ジオット キャスピタ」などの例があります。
シザー・ドア
ガルウイング・ドアと同様に、その知名度が日本でも非常に高いのが、ランボルギーニの12気筒モデル、すなわち「カウンタック」に始まり、「ディアブロ」、「ムルシエラゴ」、「アヴェンタドール」、そして最新の「レヴエルト」にも継承された「シザー・ドア」です。ドア前方にあるヒンジを軸に、上方に開くドアは、あたかもハサミ(正確にはシザースとなるが、ランボルギーニはオフィシャルにシザー・ドアと呼称している)のような動き。1970年代半ばに日本を襲ったスーパーカー・ブームの時は、カウンタックのシザー・ドアが開閉する瞬間を見るために、長い時間その前で待っていたことを思い出します。
参考までに、ランボルギーニがこのシザー・ドアを与えたのは、オンロードカーでは彼らの象徴ともいえる12気筒のミッドシップ車のみ。それもまたランボルギーニの誇りのひとつなのでしょう。
バタフライ・ドア
このシザー・ドアに良く似たドアが、「ラ フェラーリ」などに採用された「バタフライ・ドア」。名前の由来はやはりオープン時に前方から見た時の造形で、ドアの付け根とルーフの2点でドアを支えるバタフライ・ドアは、オープン時にはやや外側の斜め上方向にドアが開くため、実際に前から見えるドアの面積も大きく、それが蝶に似ていることからこう表現されるようになりました。日本ではトヨタの「セラ」が採用したことも忘れられません。
このバタフライ・ドアとまったく同じ構造のドアを採用しているのはマクラーレンですが(かつての「MP4-12C」では、ドアは1点のヒンジで支えられていた)、同社のドアは「ディヘドラル・ドア」と呼ばれます。ディヘドラルとは化学用語のひとつであると同時に、飛行機の翼の上半角を意味する言葉でもあり、オープン時の操作が軽く行えることをその名前に込めたのは確かなところでしょう。ただしシザー・ドアと比較して、オープン時には左右方向にも若干スペースの余裕が必要になるバタフライ・ドアやディヘドラル・ドアは駐車時には若干の注意が必要です。