Qカーだけで5台所有するマイクロカー愛好家
今回ご紹介しているのは、Qカーの第1弾となった「Qi(キューノ)」。999台限定で生産されたキューノの中でも、さらに99台限定で先行生産された初期ロットモデルだ。ちなみにこの99台限定の初期ロットは予約だけで完売したという。
赤、黄、黒の基本色に加え、13色のオプションカラーも用意されていたキューノだが、取材車のボディカラーはスタンダードカラーの黄色。まるで遊園地の乗り物のようなコミカルな外観で、FRP製のボディはドアも屋根も持たない。
当時Qカーの発表会会場で佐藤慶太社長(当時)が「試乗を終えて戻ってくる人が皆ニコニコしていた」と語っていたのも納得の、まさに原寸大のおもちゃだ。
このキューノのオーナーは水口 雪さん。この他にも多数の原付カーなどを所有する熱心な「小さいクルマ・コレクター」で、本職は動物病院のお医者さんである。天気の良い日に近所をドライブしたり地元の旧車イベントに参加したりと、以前からQカーとの生活を自由に楽しんでいるようだ。
ギミックたっぷりにカスタマイズして遊ぶ
「スペースも取らないし税金も安いので、何台でも持てちゃうんですよね(笑)」
と語る水口さんは若い頃から乗り物全般が好きだったというが、とくに小さなクルマには目がないそうだ。
「新車のデビュー当時は手に入れられませんでしたが、2010年に中古で手に入れることができました。自分で手軽にレストアやカスタムができる点も魅力です」
実際、水口さんのキューノは、オリジナルには備わっていない電圧計や盗難防止のセキュリティシステム、さらにドラレコや二輪用のオーディオなどが追加されている。これら実用的な装備に加え、BBSのホイールにバケットシート、クイックリリースのステアリングが奢られ、リアを見ればEVなのに4本のダミーマフラーが顔を覗かせる。
さらにアクセルペダルには電気じかけのギミックが仕込まれており、アクセルペダルの開度によってブローオフバルブの「プシューッ」という音まで発生するサービスぶり。これらのカスタムは全て「見る人にニヤリと笑ってもらいたい」というオーナーの遊び心の発露だ。
EV時代に先駆けた電気じかけの原寸大おもちゃ
世界中の多くの自動車メーカーが次世代の覇権を競いEVの開発を加速させる昨今だが、そんな時代の20年以上も前、日本の玩具メーカーが世に問うた小さな電気自動車「Qカー」は、結果的に社会に普及することはなかった。
「登場が時期尚早だったね」とか「もし現在の技術と環境であれば“Kawaii & 脱力系シティコミューター”として成功していたかも」などと、したり顔で語るのはたやすい。しかし今なお残っているQカーたちが、この水口さんをはじめとする熱心なファンによって存分に楽しまれていることを鑑みれば、BEVが本格的に普及する前夜に玩具メーカーが手がけたユニークな電気じかけの原寸大おもちゃ「Qカー」一族を、歴史のひとこまに残しておく意義は大いにあるだろう。