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かつてEVの「原寸大チョロQ」が存在した! 99台限定の初期モデル「キューノ」は1人乗りで航続距離80キロでした【マイクロカー図鑑】

キューノは法規的には原動機付き自転車(四輪)に区分される1人乗り電気自動車

チョロQモーターズの「Qカー」第1弾、Qi(キューノ)

かつてはごく少数だったBEV(内燃機関を持たず、バッテリーとモーターのみで走る電気自動車)も、現在では国産や欧米勢はもちろん、中国や韓国メーカーの新型モデルまで多くが日本の路上を走り始めており、もはや特別なクルマではなくなりつつある。そんな電気自動車がかまびすしく語られる現在だからこそ、約20年ほど昔、時代に先駆けて日本で生まれた小さな「電気自動車メーカー」のクルマたちを、改めて取り上げてみたいと思う。

おもちゃのタカラと自動車のCOXがコラボして企画

ここで実車の前におもちゃの話。クルマ系玩具の定番として、昭和の時代から長年にわたり親しまれてきた「チョロQ」。ご存知の通り、実車をかわいらしくデフォルメした全長50mm弱のボディにプルバックゼンマイを仕込んだミニカーで、1980年に「豆ダッシュ/マメダッシュ」という名称でデビュー、その後ほどなくして「チョロQ」と改められ現在に至る。

「チョロチョロ走るキュートなクルマ」ということからチョロQと命名されたことは、ファンの間ではよく知られるトリビアだ。このチョロQを手がけたのは「だっこちゃん」や「リカちゃん」、「人生ゲーム」などでも知られる老舗玩具メーカーのタカラ(現タカラトミー)である。

もともと子ども向けの玩具として誕生したチョロQであったが、そのユニークなコンセプトがクルマ好きやコレクターにも受け、次第に洒落心のわかるオトナのファン層をも獲得していった。そんなオトナのチョロQファンのひとりが、フォルクスワーゲン/アウディのチューニングなどで知られるコックスの渦尻栄治社長(当時)だった。タカラの佐藤慶太社長(当時)が「実際に人が乗って公道を走れるチョロQを作りたい」と考えたとき、そのプロジェクトに実車のプロフェッショナルである渦尻社長が参画。一見荒唐無稽にも思えたその夢の実現に向け関係者が奔走し、ついに誕生したのが原寸大のチョロQ「Qカー」だったのである。

全長2.2メートルのかわいい1人乗りEV

タカラの子会社「チョロQモーターズ株式会社」の設立は2002年。その年の7月9日には早くも同社から「Qi(キューノ)」、「U(ユー)」「QQ(ナインナイン)」の3車種が発表された。それら3台の中で最初に市販されたのがキューノである。

キューノのボディサイズは全長2200mm×全幅1100mm×全高1479mm。法規的には原動機付き自転車(四輪)に区分される1人乗り電気自動車だ。後輪2輪にそれぞれホイールインモーターを備えたRWDで最高速度は50km/h。当時のカタログによれば家庭用コンセントを用いて8時間程度で満充電、航続距離は80km(30km/h定地一定)/60km(10モード)とされている。

その生産台数は車名にちなんで限定999台とされた。運転に際してはヘルメット着用義務はないが、普通四輪免許が必要となる。特定のクルマをデフォルメしたモノではないが、いかにもチョロQ的なオリジナルのボディデザインなど、企画販売はもちろんチョロQモーターズ。そしてパワートレインはトヨタ系メーカー、アラコの小型電気自動車「エブリデーコムス」の基本コンポーネンツの供給を受け、型式認証取得はコックスが担当した。

チョロQモーターズの製造活動はわずか2年で終了

玩具メーカーのタカラ自身が作った「公道を走れるチョロQ」としてQカーはニュースなどでも大きな話題となり、メーカーの予想を超える問い合わせが相次いだという。全国で30箇所ほどの販売網も準備し、2002年10月には東京・お台場に直営店「Q-SQUARE」をオープンさせるなど、精力的な展開をみせたチョロQモーターズであったが、しかしその取り扱い車種が実用性の低い1人乗りの電気自動車だけ、しかも価格はキューノのスタンダード・モデルが129万円(消費税別)と、軽自動車と同等ということもあって、コアなマニア層の需要が一巡した後、販売はやがて頭打ちとなる。チョロQモーターズは2004年にQカーの製造を中止、「自動車メーカー」としての短い歴史に幕を下ろした。

Qカーだけで5台所有するマイクロカー愛好家

今回ご紹介しているのは、Qカーの第1弾となった「Qi(キューノ)」。999台限定で生産されたキューノの中でも、さらに99台限定で先行生産された初期ロットモデルだ。ちなみにこの99台限定の初期ロットは予約だけで完売したという。

赤、黄、黒の基本色に加え、13色のオプションカラーも用意されていたキューノだが、取材車のボディカラーはスタンダードカラーの黄色。まるで遊園地の乗り物のようなコミカルな外観で、FRP製のボディはドアも屋根も持たない。

当時Qカーの発表会会場で佐藤慶太社長(当時)が「試乗を終えて戻ってくる人が皆ニコニコしていた」と語っていたのも納得の、まさに原寸大のおもちゃだ。

このキューノのオーナーは水口 雪さん。この他にも多数の原付カーなどを所有する熱心な「小さいクルマ・コレクター」で、本職は動物病院のお医者さんである。天気の良い日に近所をドライブしたり地元の旧車イベントに参加したりと、以前からQカーとの生活を自由に楽しんでいるようだ。

ギミックたっぷりにカスタマイズして遊ぶ

「スペースも取らないし税金も安いので、何台でも持てちゃうんですよね(笑)」

と語る水口さんは若い頃から乗り物全般が好きだったというが、とくに小さなクルマには目がないそうだ。

「新車のデビュー当時は手に入れられませんでしたが、2010年に中古で手に入れることができました。自分で手軽にレストアやカスタムができる点も魅力です」

実際、水口さんのキューノは、オリジナルには備わっていない電圧計や盗難防止のセキュリティシステム、さらにドラレコや二輪用のオーディオなどが追加されている。これら実用的な装備に加え、BBSのホイールにバケットシート、クイックリリースのステアリングが奢られ、リアを見ればEVなのに4本のダミーマフラーが顔を覗かせる。

さらにアクセルペダルには電気じかけのギミックが仕込まれており、アクセルペダルの開度によってブローオフバルブの「プシューッ」という音まで発生するサービスぶり。これらのカスタムは全て「見る人にニヤリと笑ってもらいたい」というオーナーの遊び心の発露だ。

EV時代に先駆けた電気じかけの原寸大おもちゃ

世界中の多くの自動車メーカーが次世代の覇権を競いEVの開発を加速させる昨今だが、そんな時代の20年以上も前、日本の玩具メーカーが世に問うた小さな電気自動車「Qカー」は、結果的に社会に普及することはなかった。

「登場が時期尚早だったね」とか「もし現在の技術と環境であれば“Kawaii & 脱力系シティコミューター”として成功していたかも」などと、したり顔で語るのはたやすい。しかし今なお残っているQカーたちが、この水口さんをはじめとする熱心なファンによって存分に楽しまれていることを鑑みれば、BEVが本格的に普及する前夜に玩具メーカーが手がけたユニークな電気じかけの原寸大おもちゃ「Qカー」一族を、歴史のひとこまに残しておく意義は大いにあるだろう。

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