日本では2年だけ販売された小さなフォード
たぶん「そういえばそんなクルマあったよね」とほとんどの人が開口一番そう言うに違いないフォード「Ka」(かつてのフォード・セールス・ジャパンによれば日本語では「カァ」と発音するとしていた)。日本市場へは1999年1月にお目見えしたが、しかし売れ行きは好調とはいえず、この日本ではわずか2年足らずでカタログから落ちた。
元オーナーの筆者にも楽しい記憶しかない
KaはサブBセグメントと呼ばれたセグメントのクルマで、当時のフォード車ではもっともコンパクトだった2代目「フィエスタ」のプラットフォームを活かし、さらに全長を20cmほど切り詰めた、本当にコンパクトなクルマだった。
記憶に間違いがなければ筆者はこのKaの日本導入前に2度、イギリス、南フランス・カンヌ周辺での試乗ツアーに参加する機会に恵まれ、帰国後に自動車雑誌に寄稿した原稿の書き出しに「買います」と書いたほど、じつはこのクルマにゾッコンだった。結局、少し時間を置き中古車に降りてきたシルバーのKaと縁があり、有言実行を果たした(?)わけだが、次のクルマだったR50「ミニ」の限定車PARK LANEに乗り換えるまで(このクルマも原稿を引き受け書いているウチに革シートを見ていて欲しくなった)、純正の単音のホーンが鳴らなくなったこと(そこそこの部品代がかかった)を除いて楽しい記憶しかない……そんなクルマだった。
小さくても「かわいさ」に頼らない大人なデザイン
なによりKaの魅力といえば、その超個性的なスタイリングだったろう。アニメ『怪物くん』のオオカミ男(世代限定の比喩、ご容赦ください)か犬のパグのような顔つきに始まり、クリンと丸いリアまで、どこにも一寸の隙もないデザインは、見た瞬間に「このクルマに乗ったら楽しそうじゃないか!」と思わせてくれるものだった。大胆な前後の樹脂色バンパー、パーティングラインを巧みにつかったフード&リアゲートとランプまわりの処理など、見れば見るほどさり気なくも計算された流石なデザインが与えられていた。
丸っこいクルマだけれど、決してファニーでもファンシーでもなく、大人が乗っても気恥ずかしさがまったくないところもいいと思った。モノフォルムではなかったから、運転席に座った状態での感覚は案外と普通の乗用車で取り回しもラクで、大き過ぎないドア(ドゥン! と非常に頼もしい音を立てて閉まった)もまた、日常での使いやすさを実感した。
インテリアは、鉄板剥き出しのドア、いかにも樹脂の型モノといったインパネなど、廉価なコンパクトカーの身の丈どおりの仕上げ。ただし座るとフカッ! と心地よく身体を受け止めるシートは秀逸で座り心地はよかった(シート表皮はややかわいらしい柄のファブリックで、もう少し長く乗るつもりなら本革への張り替えを考えたかもしれない)。オーディオは純正のそれを外して、1DINが収まるパネルを見つけ、SONYのMDデッキをインストールして使っていた。