数多くの派生モデルを生み出したL406/L408シリーズ
18世紀後半の欧州で始まった「オークション」は、今ではわが国でもすっかりお馴染みだろう。当初は好事家の蒐集した絵画などの美術品や書籍の分野から始まったオークション・ビジネスだが、ご存知の通り今では古今東西の名車たちもひとつの大きなコンテンツとなっている。一年を通じ欧米を中心に数多く開催されるそれらモーター系オークションの中から、ここでは2023年9月15日にスイスのサンモリッツで開催されたRMサザビーズのオークションに出展されたクルマに関する話題をご紹介しよう。
戦後のメルセデス・ベンツ商用車としては第2世代となるモデル
わが国では高級乗用車メーカーとして知られるメルセデス・ベンツだが、同門のダイムラートラックも含め、同社はグループ全体で年間約45万5千台を販売(データは2021年)する世界最大級の商用車メーカーでもある。そして欧米のモーター系オークションは、戦前のGPレーサーから比較的近年の商用車まで分け隔てなく取り扱うから、いきおいオークションには古今東西の様々な商用車が出展されることも多い。
今回ご紹介するメルセデス・ベンツL408バスもそんな1台。スイス在住の自動車蒐集家、ダニエル・イゼリ氏のコレクションから放出されたコレクタブルなヒストリックカーである。
メルセデス・ベンツL406/L408シリーズは戦後のメルセデス・ベンツ商用車としては第2世代となるモデルで、前任の小型商用車L319の後継モデルとして1967年にデビューし1974年まで製造された。このL406/L408も先代同様セミボンネット・タイプのキャブオーバー・エンジン車で、その汎用性の高いシャシーはバス、トラック、バンはもちろん警察・消防から軍用まで、数多くの派生モデルを生み出した。
このL406/L408シリーズはメルセデスのトランスポーターとして戦後の第二世代ということから”T2″、あるいは生産された工場の所在地にちなんで「デュッセルドルフ・トランスポーター」の通称でも知られている。
5年の歳月をかけてレストアを実施
オークション当日、10万4650スイスフラン(邦貨換算約1695万3300円)で落札されたのが、この1972年式のメルセデス・ベンツL408バスである。用途に応じて様々なエンジンが選ばれたL408だが、この個体には85psを発生する排気量3.8リッターの水冷直列4気筒ディーゼル、OM314エンジンが搭載されている。ボディのコーチワークを手がけたのは「エルンスト・オーヴェルター・カロッセリー・ウント・ファールツォイクバウ」。
ドイツ南部のシュタイネンブロンに本拠を置く有名なコーチビルダーで、その創業は1854年に遡るという老舗だ。1920年代以降は馬車ならぬバスのボディ架装をメインに手掛けていた。この個体には2015年から2020年の間にかけて綿密に行われたレストア作業の記録写真やその作業の請求書なども残されており、それらの歴史的記録もまたこのバスの価値の一部と言えるだろう。
くすんだグリーン系の2トーン・カラーがいかにもドイツ的なセンスを感じさせるこのL408バスは、ピラーの少ない大きなウインドウと2カ所のサンルーフを備えた14人乗り。大人数の長距離旅行にも対応できるよう車内には大きな荷物棚を備え、さらに加えて大きな荷物を収容するための特注トレーラーも付属。このトレーラーは3面に扉が設けられており、荷物の出し入れが容易になるような工夫が施されている。
例えば気心の知れた仲間同士で欧州大陸縦断の長いバカンスを楽しむ。見晴らしの良い大きな車窓からはどのような景勝地が見えるのだろうか……。そんな彼の地の贅沢な時間の使い方も見えてくるような、メルセデス・ベンツL408バスではある。