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ドイツ車のボディが堅いのはアウトバーンのおかげ!? 日独伊によるクルマの設計思想の違いを説明します

BMWの製造風景

日本車やイタリア車のボディは柔らかい?

人が持つ感覚は、修練を積むことで、精密なセンサーにも引けを取らない感覚を磨くことができるもの。とはいっても個人差があるので、比較をするためには数値化をし、指標となるレベルをわかるカタチで見せていかなければならない。なんでこんなことを言いはじめたのかというと、編集部から「ドイツ車のボディに比べると日本車やイタリア車は柔らかいですよね」といわれたからだ。かつてはたしかにそうだったのだが、それはあくまで、自身で体験した中での感覚でしかない。ボディ剛性の数値化なんていうことは自動車メーカーの開発者に訊かなければわからないのだ。なので、今回は体験談を元に進めていきたい。

ドイツはアウトバーンが早くから整備されていた

ドイツ車のボディ剛性はたしかに高いのだが、これにはいくつか理由がある。まず言えるのは、アウトバーンが早くから整備されていたから。いまは制限速度が設けられている区間が増えてきたが、かつては速度無制限区間が非常に多く、最高速度ではなく巡航速度が200km/hオーバーなんていうレベルで走っていた。

そうなると、エンジンやブレーキ、サスペンションなども高速走行に準じた基準でまとめられなくてはならず、そのためには骨格となるボディがしっかりしていなければならない。ほかにも事情はあるが、鉄板は厚いものを使っていたしドアキャッチも鋳造された頑丈なものを使うことで締結剛性が高かった。筆者が所有したことのあるドイツ車はフォルクスワーゲンの初代「シロッコ」だったのだが、そんな大衆車ですら、日本の高速道路の速度レベルでは余裕さえ感じるボディの強さがあったのだ。

ところが、同じヨーロッパでもフランス車やイタリア車では、そこまでのボディの強さは感じられない。これは石畳の道路を走る機会が多いことも含めた、設計思想の違いが表れたものなのだろう。筆者が所有していたフランス車はプジョー「306スタイル」というベーシックグレードだったのだが、ボディは普通レベルで、そのかわりサスペンションがよく縮み、伸びる印象だった。

フランス車のサスペンションを評して「猫足」などといわれるが、ボディが大きくロールしても路面を離さないその味付けは、306 スタイルの165/70R14という細いタイヤでも、不安感なく山道を走ることができた。ボディの強さとサスペンションの動かし方、そのバランスが非常に高いレベルにあることで、この乗り味を実現していたのだと思う。

ボディとサスペンションのバランスが重要

それと比べるとイタリア車はどうか。筆者が現在も乗っているアルファ ロメオ「156」での感覚では、まずボディがねじれてからサスペンションが動く、というイメージがある。もうちょっと細かく言うと、当初日本に輸入されていた156は、本国ではスポルティーバというグレードで、アイバッハ製のローダウンスプリングが装備されたものだった。

しかしこのスプリングとボディ剛性のバランスは、筆者としてはどうしても納得がいかなかった。コーナーでは、まずボディがねじれてからコーナー外側のスプリングが縮み、コーナー内側のサスペンションははそれほど伸びずさらにボディがねじれる、という感じだったのだ。これはかつて乗っていたホンダ「CB250RS」というオートバイに、ハイグリップタイヤを履かせてサーキット走行をしたときに感じた、フレームがよれる感覚と似ていた。

その後、追加で正規発売された左ハンドルモデルに乗ったときには、バランスの悪さは感じられなかった。これは自由長が長くバネレートが柔らかいスプリングと、ボディのねじれ具合がうまくマッチしていたからだと思う。のちにサーキット走行をするため、自車に車高調整式サスペンションを入れたときは、左右サイドシル下に加えて、車室内Bピラー間をつなぐ補強バーを入れてボディのねじれに対する剛性を上げたことから、サスペンションの動きがよくなりトラクションがしっかりとかかるようになった。

当時のアルファチャレンジというレースに参戦したとき、プロドライバーに乗ってもらったとはいえ、2.0Lターボ4WDのアルファ ロメオ「155 Q4」と、やはりプロドライバーが駆るアルファ ロメオ「156 2.0 ツインスパーク」のグループAレーシングカーを相手に、サスペンションとブレーキパッド交換をしただけのクルマでありながら2位を獲得できたのは、補強したボディとサスペンションのバランスが良かったからだと思う。

日本車のボディ剛性は強くなっている

では日本車の話。まず日本車はいまでこそ120km/h制限区間が増えてきたが、長い間高速道路は100km/hが制限速度であったし、30〜40年前までは未舗装路も多かったため、巡航速度が低かった。さらに昔は排気量によって自動車税が大きく違っていたため小排気量車が多く、そのぶんエンジン出力が小さいためにクルマはなるべく軽くしたい。そこで早くから高張力鋼板を使いつつ、販売価格を抑えるために工数を減らす、ということから、スポット溶接個所も必要最小限にするなどの工夫を進めていた。

しかし最近の日本車のボディ剛性は確実に強くなっている。これにもいろいろな理由があるが、ひとつ言えるのはプラットフォームの共用化だろう。開発費用を抑えるというのがプラットフォームの共用化の大きなメリットだが、いろいろなクルマで使い回しをするためには、それなりに許容範囲を大きくする必要があり、それがいい方向に作用しているのではないだろうか。さらに、この先の自動運転車との違いをあきらかにするための運転する愉しさを考えたときに、ボディの強さとサスペンションのバランスが大事であることに着目して開発をおこなっているということも言えるだろう。

一方でドイツ車は、徐々に日本車のようなつくり方になりつつある。もともとボディの強さとサスペンションのバランスについては高いレベルにあったが、製造コストの削減という部分では日本車を参考にしているところも多くなってきた。一例を挙げれば、ドアキャッチのつくり。ドイツ車といえば鋳造のがっちりしたものだったのが、最近では日本車のようなパイプ製となっている。ほかにも、先々代モデルのサスペンションロアアームはアルミ鋳造だったものが、先代モデルは形状は同じだがスチール板をプレス成型し溶接で組み立てたものとなり、現行モデルではさらにつくりが簡素になっているクルマもある。

大きな変革期をどのように乗り越えるか

現在自動車メーカーは、大きな変革期をどうやって乗り越えて発展していくのかを考えている。そのひとつの方策はグローバル化で、どういう環境でも一定以上の走行性能を保ち、販売価格を抑えるために工数を削減することが、その鍵を握っている。それを考えたクルマづくりを進めていくと、徐々に似たようなコンセプトとなっていくのだろう。

いまはもう、ドイツ車だろうがイタリア車だろうが日本車だろうが、試乗したとき明らかにボディが弱いな、と感じるクルマはないといっていい。ただ、ボディの強さが高まっても、それとブッシュの硬さやメンバーの締結強度も含めたサスペンションのバランスが悪ければ、乗る側としては不満が残る。その点でいえば、まだ輸入車に一日の長があるように考えられる。もちろん日本車でもいいクルマは確実に増えている。

昔は結構ボディ剛性には差があったが、いまは輸入車だろうが国産車だろうがそんなに大きな違いはなくなった。ただ、そのボディ剛性の活かし方には違いがあるので、機会があればこういう部分にも注目をしながら乗り比べてみると面白いと思う。というか、こんなところに気がつく人は本当に少ないだろう。しかし自動車メーカーの開発者はコダワリを持っていいものをつくる努力を続けている。ちょっとでもそこに着目してもらえれば、おそらく開発者も喜ぶと思うんだけどなぁ。

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