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「なぜスリックタイヤには溝がない?」子どもの素直な疑問と発想力に勉強させられました【Key’s note】

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TEXT: 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)  PHOTO: 木下隆之/VLN

  • 木下さんとトーヨータイヤ
  • トーヨータイヤのスリックタイヤを装着している
  • トーヨータイヤのカラーリングに身を包んだトヨタGRスープラGT4
  • ドイツ・ニュルブルクリンクのレースにはトーヨータイヤのサービスカーも帯同
  • スリックタイヤは雨に濡れたウエット路面では性能を発揮できない
  • レースにはウエット路面用のタイヤも多く持ち込まれる
  • 走行前にはタイヤウォーマーを使って性能をすぐに引き出せるようスタンバイ
  • レースのピットにはトーヨータイヤの横断幕
  • ドイツ・ニュルブルクリンクの森の中を駆け抜けるスープラ
  • ドイツ・ニュルブルクリンクを駆け抜ける2台のトーヨータイヤGRスープラ
  • トーヨータイヤと筆者
  • 上級カテゴリーなどではレギュレーションでスリックタイヤ装着が認められている

どうしてレース用タイヤには溝がない?

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「スリックタイヤ」についてです。木下さんのレース活動を応援している中学生から、どうしてレース用タイヤは溝がない? と質問されたそう。自動車業界では当たり前ながら一般的には知られていないであろう、タイヤの溝について語ります。

レース界では当たり前でも一般的には謎

僕が参戦しているドイツ・ニュルブルクリンクのレースを熱心に応援してくれている少年から、こんな質問を受けました。質問の主は、最近トーヨータイヤの活動を見たことからレースに興味を持ってくれたという男子中学生。18歳になったらすぐに免許証を取得するとのことです。

質問を要約するとこうなります。

「レース用のタイヤはなぜ溝がないのですか?」

いやはや、長い間レースをしている僕らにとっては当たり前のことも、多くの人にとっては不思議なことですよね。街中を走っているタイヤはすべて、溝が刻まれているのですから……。

もちろん、モータースポーツに興味のある御仁においては常識的な質問ですし、このコラムで説明するまでもなく、すでにご存じの方が多いことでしょう。

ですが、こんなシンプルな質問こそ回答は簡単ではないもの。「なんで箸は2本なのか」とか「右足の次に左足を出さないと、なぜ歩けないのか」と同様で、当たり前のことこそ回答に窮するものです。

閑話休題。

スリックタイヤを使用する理由を簡単に言ってしまうならば「その方が速いからです」と答えました。

トレッド面(路面に接する面)に溝がないタイヤをスリックタイヤといいます。その面には一切の溝がありません。そうする目的は、タイヤと路面に接する面積を増やすことです。接地面積が増えれば、グリップ性能(タイヤが路面に吸いつく性能)が高くなります。摩擦力が上がることで、速い速度でコーナを旋回できるのです。

なぜ接地面が広がるとグリップ力が上がるのかは、また別の機会に説明することで逃げました(笑)。

タイヤの剛性を高めるという効果も期待できます。タイヤは基本的にゴムでできています。トレッドに溝を刻むと、そこには消しゴムのような小さな塊ができ、そのゴムが速い速度でコーナーを旋回するときにグニャグニャとヨレてしまう。するとドライバーは狙ったラインをトレースすることが困難になり、タイムロスをするのです。

ところが、スリックタイヤはその消しゴムのようなゴムの塊がなく、トレッドの剛性が上がる。つまり、ヨレが少なくなり、走りやすくなるというわけ。

ただし、スリックタイヤにもデメリットがあります。ウエット路面は苦手です。水捌けが悪くなり、タイヤが路面から浮いた状態になってしまいます。ですから、レースでもひとたび雨が降り始めれば、トレッド面に溝を掘ったウエット用のタイヤに交換するのです。

子どもの想像力の高さには驚かされた!

ちなみに、一般公道でスリックタイヤを見かけないのは、雨が降ったらとても危険だからです。道路交通法でも、公道でのスリックタイヤの装着は禁止されていますよね。

するとその少年は、的確な例え話をしてくれました。

「雨の日にビーチサンダルを履いて大理石のようなツルツルの道を歩くと、とても滑りやすいですよね。あれと同じですか?」と。

聡明な少年ですね。僕が納得させられたのです。

「下駄を履いて走ると走りづらいのと同じですか?」

その例え話にも驚かされました。

少年の柔軟な発想力は素晴らしい。レーシングスピードで起きていることは、日常での出来事の延長なのですね。納得させられたのは僕のほうだったようです。

その少年の将来が楽しみです。有能なレーシングドライバーになっているかもしれません。

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  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 1960年5月5日生まれ。明治学院大学経済学部卒業。体育会自動車部主将。日本学生チャンピオン。出版社編集部勤務後にレーシングドライバー、シャーナリストに転身。日産、トヨタ、三菱のメーカー契約。全日本、欧州のレースでシリーズチャンピオンを獲得。スーパー耐久史上最多勝利数記録を更新中。伝統的なニュルブルクリンク24時間レースには日本人最多出場、最速タイム、最高位を保持。2018年はブランパンGTアジアシリーズに参戦。シリーズチャンピオン獲得。レクサスブランドアドバイザー。現在はトーヨータイヤのアンバサダーに就任。レース活動と並行して、積極的にマスコミへの出演、執筆活動をこなす。テレビ出演の他、自動車雑誌および一般男性誌に多数執筆。数誌に連載レギュラーページを持つ。日本カーオブザイヤー選考委員。日本モータージャーナリスト協会所属。日本ボートオブザイヤー選考委員。
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