独自の走りの世界観をカジュアルに楽しませてくれるクルマだった
クーペ フィアット&フィアット バルケッタ。こう書くと、まるでトム&ジェリーのコンビか何かのようだが、見るからに個性に溢れたこの2車は、日本市場へもクーペ フィアットが1995年3月、フィアット バルケッタが1996年3月に、それぞれ相次いで導入された。
どこをとっても個性を主張するディテールで構成
その頃というとアルファ ロメオの164、155、145といったモデルのほか、その次世代のGTVとスパイダーなどが人気となり、ほかのイタリア車でもランチア(テーマやデドラ、デルタ・インテグラーレ)、マセラティ(ギブリ、シャマルなど)などイタ車好きにとって気になるモデルが目白押しだった時期。
そうした中でフィアットというと「鉄板」のパンダや初代プント、一瞬だけ輸入されたハッチバックのブラビッシモなどがあったが、いずれもフィアットの王道をいく実用車ばかりだった。そうした中で忽然と姿を現したクーペ フィアットとフィアット バルケッタは、当然ながらイタ車に目がないマニアの目と気持ちを惹きつけたクルマなのだった。
登場順でいくとまずクーペ フィアットだが、このクルマは何といっても奮った……というより意表を突いたスタイリングに目が釘付けになった。この外観デザインは、のちにBMWの7シリーズ(E65)や5シリーズ(E60)をまとめたクリス・バングルがフィアット時代に手がけたものという。
観察すると、全体に丸みを持たせながらも前後フェンダーアーチ上にはナイフで切り欠きを入れたようなプレスラインが走り、フロントのそこから開くクラムシェル状のフードには樹脂のアウターカバーに収まるヘッドライト、裁ち落としたリアエンドには斜めに配したテールランプ&ウインカー、アルミ製フィラーキャップなど、どこをとっても個性を主張するディテールで構成されていた。
インテリアはインパネ、ドアトリムにボディ色を引き込むことで、モダンながらクラシカルな趣も醸し出していた。奇をてらったというよりむしろプレーンに仕上げられたデザインで、居心地のよさが味わえる、そんな室内空間に仕上げられていた。
その一方、走りは非常に刺激的だった。それもそのはずで、エンジンはあのランチアデルタインテグラーレと共通の2L(1995cc)ツインオーバーヘッドカム16バルブにGarrett社製水冷ターボを搭載。最高出力195ps、最大トルク30.2kgmを発揮、さらに左右輪へのトルク配分を常に最適に制御する、ヴィスコドライブと呼ばれるトラクションコントロールも備えた。こうした結果、一見すると雰囲気重視のクーペか!? と思わせておきながら、いざアクセルを踏み込めば豪快な加速を示し、その意味でも実に刺激的なドライブが味わえるクーペとなっていた。