初代から変わらぬ魅力を体現する1台
試乗車はパイソングリーンのMT仕様車だった。いまやスポーツカーでもATが常識だ。フェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレンといったスーパーカーの世界ではMTは絶滅してしまった。それでもMTを設定し続けるのはポルシェの矜持なのだろう。
スペックをみてみると、0-100 km/h加速 はPDKが4.0 秒なのに対してMTは4.5 秒。0-200 km/h加速は、PDKが14.2 秒でMTは15.1 秒と1秒近くもの差がある。これではサーキットでのラップタイム比較ではまったく勝負にならない。そういう意味では速さを求めるモデルではないといえるだろう。
タイプ991の前期型では少し違和感のあった7速MTも洗練度が増しており、街乗りなどでも頻度高く使う2〜5速のあたりはさすがポルシェというべき操作フィールを実現している。7速は高速道路などでのクルージングギアという位置づけだ。
タイヤサイズは標準車に比べて1インチアップされており、フロントは20インチ、リアは21インチのチタニウムグレー カレラSホイールに、フロント245/35、リア305/30サイズのタイヤ(ピレリPゼロ)を組み合わせる。乗り味は、低い車高もあって適度に引き締められていながらも、カレラの延長線上にあるもので街乗りも快適にこなせる。これ以外にもカレラTの専用装備として、GTスポーツステアリングホイール、スポーツシートプラス、スポーツエグゾーストシステムも備わっている。
911は2023年に、生誕60周年。そして世のすべてのクルマがそうであるように変革のときを迎えている。そう遠くないタイミングで発表されるであろう992.2、いわゆる後期型992ではついに911にも電動化(ハイブリッド)モデルが追加される予定だ。
独特の鼓動を感じる水平対向エンジン、それに自らの手足と3ペダルとをシンクロさせながら幾度となくシフトチェンジを重ねていく。求めるのは速さではなく、操ることの楽しさ。カレラTは、そんな初代からずっと変わらない911の魅力を、現代においてもっともピュアに体現しているモデルといえるだろう。もし幸運にもこのクルマを購入できるのであれば、個人的には間違いなくMTを選ぶ。