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走行わずか15キロの「原寸大チョロQ」を救出! パーソナルEVの先駆け「チョロQモーターズ」とは【マイクロカー図鑑】

Qカーの第2弾として発売されたU(ユー)

チョロQモーターズの「Qカー」第2弾、U(ユー)

かつてはごく少数だったBEV(内燃機関を持たず、バッテリーとモーターのみで走る電気自動車)も、もはや特別なクルマではなくなりつつある。そんな電気自動車がかまびすしく語られる現在だからこそ、約20年ほど昔、時代に先駆けて日本で生まれた小さな「電気自動車メーカー」のクルマたちを、改めて取り上げてみたいと思う。

20年前にパーソナルEVを先駆けたチョロQモーターズ

クルマ系玩具の定番として、昭和の時代から長年にわたり親しまれているタカラ(現タカラトミー)の「チョロQ」。ご存知の通りチョロQとは実車のデザインを全長50mm弱のコミカルなデフォルメのデザインに落とし込み、プルバックゼンマイ駆動で走らせて遊ぶ子ども向けミニカー玩具だ。そんなチョロQを本物のクルマとして再現し、公道を走ってみたい──。一見荒唐無稽にも思えるこのアイデアは、今から20年ほど前に、タカラ自身が手がけたBEVによって現実のものとされている。

タカラが「チョロQの実車」を生産するために子会社「チョロQモーターズ株式会社」を設立したのは2002年のこと。ちなみにロゴの表記は「CQモーターズ(シーキューモーターズ)」だが、正式な会社名は「チョロキューモーターズ」。当時のカタログなどではCQモーターズとチョロQモーターズの表記が混在している。

同社で作られるクルマ(Qカー)はいずれも1人乗りの電気自動車で、その年の7月9日には早くも同社から「Qi(キューノ)」、「U(ユー)」「QQ(ナインナイン)」の3車種が発表された。いずれもトヨタ系メーカー、アラコの小型電気自動車「エブリデーコムス」の基本コンポーネンツの供給を受け、そのシャシーにコミカルなオリジナル・デザインのボディを架装したもの。車両の開発・型式認証取得は、フォルクスワーゲン/アウディのチューニングなどで知られるコックスが担当した。これはチョロQのファンとして知られた同社の渦尻栄治社長(当時)とタカラの佐藤慶太社長(当時)との縁によって実現した協業だ。

Qカー第2弾は屋根も荷台もある「U(ユー)」

今回ご紹介するのはQカーのU(ユー)である。キューノとナインナインがいずれも「いかにもチョロQ」といったオモチャ的な外観なのに対し、このユーはフロントウインドウにワイパー、ルーフや荷台といった装備も備え、実用性を高めたモデルとなっている。

発表会の時点ではキューノとナインナインは実車が展示されていたのに対し、ユーはQカー第3弾としてレンダリング・スケッチだけが発表されていたが、実際にはQカー第1弾のキューノに続いて市販されたのはこちらのユーだった。当時の市販開始後のカタログを見ても「電気自動車Q-CARシリーズ第二弾登場!!」と表記されている。

実用方面にシフトしたユーには、ベーシック、タウン、サーフ、ペット、フィッシングと呼ばれる各種仕様が用意され、オーナーのライフスタイルに合わせて選択できた。これは当時「ライフエンタテインメント企業」を標榜していた同社の方向性にも合致するものだったろう。基本価格は仕様によって119~129万円(消費税別)であった。

ずっと休眠していた個体を譲り受けてレストア&カスタム

ユーのボディサイズは全長1990mm×全幅1070mm×全高1600mm。デザインコンシャス(?)なキューノに対し、こちらは使えるツール感が強調された外観だ。車名のユーは「4U(For You)」、すなわちUtility(実用性)、Unique(独自性)、Up coming(未来感)、Up lift(向上性)に由来する。第1弾のキューノ同様、このユーも法規的には原動機付き自転車(四輪)に区分される1人乗り電気自動車。後輪2輪にそれぞれホイールインモーターを備えたRWDで最高速度は50km/hとなっている。家庭用コンセントを用いて8時間程度で満充電、航続距離は80km(30km/h定地一定)/60km(10モード)といった基本スペック自体はキューノと共通。運転に際してはヘルメット着用義務はないが、普通四輪免許が必要だ。

一説によると200台程度が生産されたと言われるユー。今ではほとんど見ることもないこのマイクロカーのオーナーは、埼玉で動物病院を営む水口雪さんだ。この他にも多数の原付カーなどを所有する熱心な「小さいクルマ・コレクター」である。

今から13年ほど前の2010年、某所に眠っていた走行距離わずか15kmという「ほぼ新車」のこの個体に出会い、オーナーに頼み込んで特別に譲ってもらったという。

「長い間放置されていたのでバッテリーや消耗パーツは全滅。7個のバッテリーや充電器、ウィンカーやスイッチ類などほとんどの部品を交換、フロアも傷んでいたので張り替えました」

と語る水口さん。苦労の甲斐あってレストア終了後に無事ナンバーを取得、さらに電圧計を追加したりLEDのヘッドライトに交換したりと、オリジナル状態を活かしつつも一部に独自のカスタムを加え、今では元気に公道を走れる状態だ。

遊び心たっぷりのパーソナルEVだった

ゴルフ場のカートや構内のフォークリフトなど、BEVがまだ限定された用途で使われることが多く一般道を走ること自体が珍しかった時代、玩具メーカーならではの自由な発想で果敢に日本の公道を目指したタカラ/チョロQモーターズのQカー。

──遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん(『梁塵秘抄』)──

無粋なリアリストたちに「時代の徒花」といわれようと、日本の電気自動車の歴史に小さな足跡を残したQカーたちは、熱心なオーナーたちの手によって今なお多くの個体が健在である。

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