フィアットなのに高級クーペ?
2023年8月の「モントレー・カーウィーク」におけるオークション群が終了すると、以前ならばクラシックカー/コレクターズカーを対象とする国際オークションハウスも、しばしの休息に入るのが慣例となっていた。ところが業界が沸騰している近年では、翌9月からも大・小規模のオークションや、得意客のみを対象としたプライベートセールなどが積極的に展開されているようだ。2023年9月、RMサザビーズ欧州本社がスイスで開催した「St. Moritz」オークションもそのひとつ。2021年の第一回以来、サン・モリッツの5つ星ホテル「ケンピンスキー・グランドホテル・デ・バン」で行われてきたのだが、プライベートセールとしての意味合いも強いこのオークションでは、なかなかマニアックな車種選択がなされていたようだ。今回はその中から「フィアット130クーペ」をピックアップしよう。
大衆車メーカーのフィアットが作ったゴージャスなクーペとは?
1971年春のジュネーヴ・ショーでデビューした130クーペは、その2年前、1969年のジュネーヴ・ショーで発表された「130(ベルリーナ)」と同じホイールベース上に、ピニンファリーナ製の2ドア5座ボディを架装した高級パーソナルカーである。「メルセデス・ベンツ280SEクーペ」や「BMW 3.0CS」のすぐ下のマーケットを意識したとされ、第二次世界大戦後のフィアットの歴史上においても、かなり特異で豪華なクーペだった。
モノコックのプラットフォームは130ベルリーナと共通で、サスペンションは前後ともストラットによる独立式。ただしフロントは、コイルではなくトーションバーを用いることで、エンジンベイにV6やエアコンを搭載するスペースを稼いでいた。
いっぽう後輪懸架は、フィアット ディーノの2.4リッター版(後期型)とも共通のコイルスプリング式を流用した。また、ブレーキは4輪ともにベンチレーテッドディスクを備え、タイヤは205/70VR14ラジアルを装着している。
フロントに縦置きされ後輪を駆動するV型6気筒のエンジンは、ディーノV6から発展したものとする説もあるようだが、実際にはまったくの別ものである。バンク角はディーノV6の65度に対して、こちらは60度。カムシャフトの駆動はチェーンではなくコッグドベルトで、各バンク当たりSOHCとされている。
排気量は、ベルリーナが2866ccだったのに対して3235ccに拡大。最高出力は165psを発生する。
ボディはデザイン/コーチワークともにピニンファリーナ社に委ねられ、デザインワークは当時ピニンファリーナ社に在籍していたパオロ・マルティンが主導したと伝えられる。プロポーションについては同じピニンファリーナの手によるデザインで、4年後にデビューしたR-Rカマルグとの相似性も感じられる。また、フロントマスクはベルリーナの丸型4灯に対して、スタイリッシュな薄型矩形の専用品が用意された。
前任にあたるフィアット「2300クーペ」のみならず、すでに傘下にあったランチアの「フラミニア・クーペ」のマーケットも継承すべきモデルであったことから、インテリアはかなり豪華な仕立て。本革レザーやウッドパネルなどがふんだんに用いられ、フィアットとしてはきわめてゴージャスな空間を演出していた。