開発と生産の一部をポルシェが手がけたモデルもあった
初代「Eクラス」にあたるメルセデス・ベンツ「W124」が本国で発表されたのは1985年のことだったから、2023年ですでに38年。ご存知のとおり以降、W210、W211、W212、W213と続き、6代目のW214も発表済みだ。初代のW124は10年ほど、2代目以降の各世代もほぼ7年ごとと比較的長めの周期でモデルチェンジされてきたが、これまでに5世代が世に生まれたことになる。
ミディアム・クラスと呼ばれたW124
「Sクラス」に対してコンパクトの位置づけにあった「W123」はコードナンバーでもわかるとおりW124の直接の前身だったが、W124の登場よりひと足先の1984年、正真正銘さらにコンパクトな「190」シリーズ(W201)が登場。このことでW124は当初は「ミディアム・クラス」と呼ばれた。メルセデス・ファンの皆さんはどう思われているのかわからないが、少なくともメルセデス・ベンツのオーナー経験のない筆者にとって、このミディアム・クラスという呼び名(と今のような膨大なラインアップを擁さず、大中小の「中」の呼び名で通用した時代)は懐かしいというか愛おしい気もする。
もっといえば、W124よりも以前の世代のメルセデス・ベンツの中の数々の名車はまた話が別として、W124はその後に4度(最新のW214を含めれば5度)のモデルチェンジが行われ、その都度の時代に合わせた新型に生まれ変わってきたものの、やはりW124がいいクルマだったよね……の思いは、時間が経とうとも、いささかも薄らぎそうにない。
W124はそれまでのW123に対して格段にモダンに進化を果たしたクルマだった。メカニズムは190シリーズをベースとし、リアサスペンションにマルチリンク式を新採用したほか、メルセデス・ベンツでは初めての65プロファイルタイヤの採用(190はまだ70だった)といったトピックも。
一方でボディは、フロントグリルとスリー・ポインテッド・スターのオーナメント、グレード名のバッジ以外にメッキの加飾などない、思い出すと第一印象は無機質で質素に感じたほどだった。だが、Cd値は0.29とじつは空力的に洗練されたスタイルで、アームを伸縮させて払拭面積を広げる1本ワイパー、凹凸をつけ汚れても視認性を確保する工夫のされたリアコンビランプ(これはW123でも採用された)、ハイデッキとして520Lの容量を確保したトランクルームなど、メルセデス流の機能に裏付けられたデザインとしていた。
また空力と機能を前提に、左右非対象のアウトサイドミラー(ドアミラー)が採用されたこともあった。ちなみに世代の途中(1990年)のマイナーチェンジで「サッコプレート」をまとったスタイルに改められたが、筆者は個人的にはそれまでのボディサイドに黒いモールが走るスノッブな姿は悪くないと思えた。
エンジンは当初の日本仕様には新開発の4気筒(2.3L)、6気筒(3L)、さらに6気筒のディーゼルターボ(3L)が搭載された。
もちろん懐の深い乗り味、穏やかでスムーズなステアリングフィールもW124ならではのものだった。インテリアもたわみながら身体を受け止めるシート、静謐な視認性を確保したメーター、ライトスイッチ、駐車ブレーキ解除レバー、空調ダイヤルなどの機能的な配置も実用車の見本のようだった。またスタッガード式と呼ばれたシフトゲートも、コクンコクンと絶妙ななめらかさで操作することができ、W124を運転していると、日頃そうではない自分がジェントルになっていく……そんな実感を味わわせてくれたものだ。