ドイツの博物館で出会ったスポーツカーたち
2023年の夏にはフランスとドイツで数々の自動車博物館を訪れましたが、フランスでは初めて訪れた博物館が4つのみだったのに対してドイツでは15もの博物館が初の訪問となっていました。初めて訪れた博物館には、シリンダーハウス博物館(Zylinderhaus Museum)のように地上3階・地下1階の立派なビルディングを構えたものもあれば、PSストレイジ(PS Speicher)のように1日で見て回ることができず、スケジュールを組み替えて再度訪れたほど収蔵台数の多い博物館もありました。そんなドイツの自動車博物館で出会ったライトウェイトなスポーツカーを紹介します。候補車は多かったのですが、フランス編と同じく10台に絞ってみました。
初訪問の博物館で初対面のスポーツカー続々
ドイツの自動車博物館取材行は、ミュンヘン空港からクルマで約1時間の距離にあるEFA自動車歴史館(EFA Mobile Zeiten)から始まりました。以前はEFAドイツのクルマ歴史博物館(EFA-Museum für Deutsche Automobilgeschichte)の名称で、ウェブサイトのトップページには125ccエンジンを搭載したマイクロカーの「クラインシュニットガー」が掲載されており、マイクロカーに特化した自動車博物館と認識していたのですが、マイクロカーからメルセデス・ベンツの「プルマン」まで、さまざまなドイツ車を収蔵展示する自動車博物館でした。
ここで出会ったのがボルクヴァルトの「イザベラ」です。イザベラはボルクヴァルトとして最大のヒット作で、これまで2+2のクーペは何度も見かけたのですが、生産台数もわずかだったカブリオレは今回が初対面。モノコックボディに4輪独立のサスペンションを組み付けた、当時としては進歩的なメカニズムを持った1台。
その後いくつかの自動車博物館を巡り、5日目に訪れたのがPSストレイジ(PS Speicher)です。じつはこちらの名称をどう表現すべきか迷ってしまいました。PSは馬力を示す単位でSpeicherは保管庫などの意味があるドイツ語です。そこでハイパワー・ストレイジとも考えましたが、結局は単純にPSストレイジとしています。
その名称よりも注目すべきは収蔵台数の多さ。ここは町ぐるみで自動車博物館を前面に押し出しており、本館に加えて自動車館、ミニカー館、バス・トラック館、2輪館があり、本館とミニカー館を撮影し終えて自動車館の撮影をしている途中でタイムアウト。スケジュールをやり繰りして再度、取材に訪れることになりました。
そこで出会ったのがフィアット「600」の「ヴィオッティ(Viotti)」と「バートン(Burton)」のロードスター、「アズテック(Aztec)」のGT、そしてDKWの「モンツァ」で、バートンとアズテックはこれが初対面でした。ヴィオッティはトリノにあったカロッツェリアが手がけたモデルでフィアット600がベースになっています。
「ずんぐりむっくり」のベースとは一転、端正な3ボックス・スタイリングで、とくに流麗なイメージを訴えるリアビューが特徴的です。ちなみに車両重量は600kg前後のベースモデルと同等で、パフォーマンス的にもベースモデルと同等だったとか。
バートンはクラシカルなルックスを持ったキットカーでボディワークはグラスファイバーで成形されたもの。このロードスターに加えてガルウイングドアを持ったクーペスタイルのコンバーティブルも用意されていました。ベースはシトロエンの「2CV」ですが、流麗なスタイリングに仕上がり「みにくいアヒルの子」は美しい白鳥に昇華していました。
アズテックはアメリカのファイバーハブ社がリリースしていたキットカーで、フォルクスワーゲン ビートルのフロアパン(シャシー)とエンジンを流用し、ファイバーグラスで成形された2ドアクーペボディを架装したモデル。PSストレイジで出会った個体は、少しやつれていたように感じましたが、「フォードGT」、通称GT40にも似たスタイリングが好評でした。
DKWのモンツァはDKWのF91「ゾンダークラッセ」をベースに、新たに2ドアのクーペボディを構築したもの。903ccの2ストローク3気筒エンジンをフロントに縦置き搭載して前輪を駆動するパッケージは同様。全長4090mm×全幅1610mmと現代のコンパクトスポーツ並みのサイズですが車両重量が780kgと軽量で40HPのパワーでも当時は十分なパフォーマンスを見せたと思います。