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整備を終えてイベント会場へ出発! ようやく走り出すも帰りはゴブジじゃありませんでした!?【週刊チンクエチェントVol.25】

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TEXT: 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)  PHOTO: 嶋田智之

走り出すも再びオイルが……

「ちょっとテストで走ってみたんですけど、電話で聞いたステアリングフィールの違和感、まぁレストアしてあっても完全な新車に戻るわけじゃなくて個体としては古いわけだし、歴代のオーナーさんの乗り方や受けてきた整備の状態もあって個体差も大きいから、もっとすごい状態のクルマもあるんですけど、一応チェックしてみたら、グリスが塗られてなかったですよ。もちろん塗っておきましたから、かなりよくなってると思いますよ」

この平井さんの言葉の中にはとても重要なことが隠れていたのが後でわかるのだけど、このときの僕には知るよしもなし。エキスパートである平井さんも、後で訊ねたところによれば、ここで話した以上のことは想像もしてなかったという。

「ほかにも気になるところはいくつかあるんですけど、緊急を要するところじゃないから、おいおいやっていきましょう。オイルもどこから噴いてるのかチェックしたんですけど見つけられないから、とにかくサービスエリアふたつごとぐらいにチェックしながら走っていってください」

その言葉に送り出されて、イベント運営スタッフとの夕食会に間に合うよう、スティルベーシックを出発する。まずは新東名の新静岡インターを目指して走り出したのだけど、たしかにステアリングの動きはスムーズになっていて、途中から勝手に切り込んでいくような動きもない。それにはホッとしたりニヤリとしたり。

「振動、街中のこのくらいのスピードでもわかりますね」

助手席に座る西山くんの言葉だ。

「そうなんだよねぇ。これが速度計で65km/hあたりになると、シフトレバーが五木ひろしさんの拳を握ってグッとやる動きが早送りになる感じになっちゃってさぁ……」

「それ、よくわからないんですけど……(笑)」

「だよねぇ(笑)。……運転してみる?」

「いえ、今日はヤメときます(笑)」

そんな会話をしながら、10数分で新静岡インターに到着。ETCゲートをくぐる前に、エンジンルームの中をチェックしてみることにする。

……えっ? スティルベーシックを出るときに綺麗にしてくれたのに、だいぶうっすらとだけどオイルが付着してる? もしかして、これからオイルの噴き出す量が増えてったりしちゃうのかな……? だとしたらヤバイかも。

そこから平井さんに電話をして相談すると、当然ながらメカニカルな部分を今すぐどうこうすることはできないのだけど、もともと入ってるオイルは粘度が比較的サラサラしてるやわらかいものだから、暫定的に気密性がかなり高い特注のエンジンオイルがあるのでそれに交換してみよう、ということになった。

で、スティルベーシックに戻ってオイルを交換してもらい、再出発。再び新静岡インターの手前でチェックをしてみると、オイルの付着はほとんど見られない。かなり違うのだな、と思った。それでもどうなるかは走っていってみないとわからない……と疑念を拭いきれないまま、新東名に突入する。

新しいオイルに交換したあとは噴出量が少なくなった!

交換してもらった新しいオイルは、走っていても感じられるくらい粘度が硬い。もとがたった18psのエンジンだから、普通のクルマ以上にオイルの性質の違いが出てくるのだろう。それでもスティルベーシックからその晩のホテルまでの約180kmでは、チェックをするたびに間違いなくそれまでより噴出量が少ないな、という実感があった。まぁ……やっぱり負荷の大きな高速走行。エンジンフードの裏側にはそれなりにオイルの膜ができあがったりはしたのだけど。

振動は相変わらず。速度を上げすぎないように注意深く走るのだけど、それだからして進みが遅い。もしかしたら夕食会の時間には間に合わないかもなぁ……と思いつつ、西山くんに訊ねてみる。

「運転してみる?」

「いえ、今日はヤメときます(笑)」

慎重な男である(笑)。そんなやりとりを何度も繰り返し、元同僚だけにくだらない想い出話をしたりして、目的地にだいぶ近づいた名古屋第二環状自動車道に入ったあたりで、ちょっとした出来事があった。

カコン……カコンコン……カコンカンカン……カン……カラカラコロコロカラン……。

エンジンルームの中で何かが外れ、エンジンルームの中で軽く暴れ、おそらく路面に落ちていった感じの音だ。走るフィーリングに変化はないし、その音以外の異変は感じられないし、クルマを停めて落ちたモノを探しにいけるようなシチュエーションでもないので、それからすぐに到達した目的地近くの鳴海インターで降りてから、エンジンルームをチェックしてみる。

いったい何が外れた? 何が落ちた? ……あ!

エアクリーナーの上側の蓋がない。振動で外れちゃったのだと思う。それでも走るのに支障はないからそのままホテルへ向かって、夕食会にちょっと遅れで参加し、“西山くんは散々な気分だっただろうな……”と思いながらベッドに転がり込んだ。

翌日──。会場となったモリコロパークの目立つところに置かれたゴブジ号は、これまであったことがウソみたいにニコニコした顔でイベント参加者たちにかわいがられていた。チンクエチェント博物館と相談して、ドアをロックせずに置いておくから誰でも乗り込んでもらってかまわないよ、というカタチの展示にさせてもらったのだ。一般のユーザーさんのクルマだとなかなかそういうこともできないわけだけど、ゴブジ号はデモカーでもある。好きな人にはどんどんこのクルマの雰囲気を楽しんで欲しいな、と思って提案させてもらったのだった。ちなみにそういうカタチでの展示は、その後のチンクエチェント博物館のイベントではずっと続けてる。なので機会があれば、あなたもぜひ!

と、人気者だったのはいいのだけど、この日のイベント終了後、僕はまたしても博物館所有のアバルト595モメントに乗って東京に帰ることになった。ゴブジ号は大事をとって積車に載せて、スティルベーシックに運んでいかれることになったのだ。

またしばらくチンクエチェントに触れられない日々、である。

■「週刊チンクエチェント」連載記事一覧はこちら

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  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 『Tipo』の編集長を長く務め、スーパーカー雑誌の『ROSSO』やフェラーリ専門誌『Scuderia』の総編集長を歴任した後に独立。クルマとヒトを柱に据え、2011年からフリーランスのライター、エディターとして活動を開始。自動車専門誌、一般誌、Webなどに寄稿するとともに、イベントやラジオ番組などではトークのゲストとして、クルマの楽しさを、ときにマニアックに、ときに解りやすく語る。走らせたことのある車種の多さでは自動車メディア業界でも屈指の存在であり、また欧州を中心とした海外取材の経験も豊富。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
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