現存数が少ないディーゼルのオーナーは、20代続くお坊さん
クラシックカーのイベントには、人気車、レア車と区別なく集まるのが面白い。2023年10月15日に開催された「門司港レトロカーミーティング2023」に展示されていたこちらの日産「セドリック」(4代目330型)は、希少なディーゼル車だった。当時のままの状態で46年も所有し続けるのは則次春賢さん。実は、岡山県備前市にある大滝山福寿院というお寺で、奈良時代に始まる高野山真言宗派の20代目を務めるお坊さんなのだった。
70年代の排ガス規制ガソリンエンジンが嫌で、ディーゼルを購入
排ガス規制や燃費向上を目指した技術の進化は、今に始まったことではない。1970年代もアメリカの大気浄化法改正案=マスキー法に始まる排ガス規制により、各社が対応エンジンを開発。日産はNAPS(Nissan Anti Pollution System:ナップス)を開発したものの、これがパワーダウンした面白みのないエンジンと揶揄されたことも事実。則次さんファミリーもディーゼルを選んだのは、「これからはディーゼルの時代が来るだろうと思って、父親が購入しました」という理由だった。
「このセドリックがわが家にやって来たのは、父が50歳ぐらい、私が22〜23歳ぐらいの時でした。実際に乗ってみたら、低速トルクはあるけど馬力が全然ない。今日だって岡山から来ましたが、80キロで走るのが精いっぱいです。しかも、黒煙を出して走るから印象が悪過ぎましたね。結果的に、日本ではディーゼルエンジンは主流になりませんでしたからねぇ」
新車から乗り続ける“ほぼ”1オーナーの美旧車
則次さんの愛車は、1976年(昭和51年)7月登録の日産「セドリック」(4代目330型)で、通称ニヤツキテールと呼ばれるもの。エンジンは排気量2000cc、直列4気筒OHVのSD20型で、60psを発生。お寺に嫁いだことがラッキーだったのか、それともディーゼルエンジンだからか? その理由は定かではないが、ノーサスのシャコタンなどに変更されることなく、由緒正しい純正のまま現存できているのも、奇跡的である。
「父は購入しただけでほとんど乗らずじまい。当時から私が運転手を務めたり、足グルマとして活用していました。父親が亡くなったため名義を私へと変更しましたが、新車時代から私がほとんど乗ってきたので、実際は1オーナーのようなものです」
それにしても、一見すると程度良好の美車にしか見えない。レストアは一切しておらず、事故などによりぶつけた事での修復歴も無し。よく見るとすり傷があったり、サイドシル部には水の進入による錆が見られたが、当時の塗装やメッキ部分などが、とても美しく保たれている。きっとこまめに洗車や磨きをするなど、クラシックカーオーナーさんらしい気遣いがあるのだろうと、その秘訣を伺ってみたところ、返ってきた答えがこれだった。
水はクラシックカーの大敵! 濡らさずに美しく保つべし
「モップと毛ばたき。私の愛車掃除は、この二つがメインなのです」
その理由は簡単で、則次さんは「水で濡らさない」という事を心がけているとのこと。雨の日や降りそうな日に乗らないのは当然だが、「水かけ洗車もしません」という徹底ぶり。とにかく、錆が増えることを防ぐことを最優先しているのだ。そのため、この美しいボディ状態を保つための手段として、自らの経験を積み重ねて導き出した答えが、モップと毛ばたきだったのだ。
「汚れが酷い場合には、バケツに水を溜めて最小限の水分でそれを落とす。埃が被っている場合は、毛ばたきを使って振り払う。私の掃除の基本はこれだけです。濡らさず、こすらず。毛ばたきも必ず2本使います。片手に1本ずつ持って、こうして吹き払うのです」
実演して見せてくれた則次さんの手慣れた仕草を、写真でしかご覧にいただけないのが残念だが、こうやって47年前の納車当時から、愛車(当初はファミリーカー)を労わってきたのだろう。そうでなければ、この輝きがここまで保たれることはないはずだから。
イベント参加時も、「雨が降りそうなら当日キャンセルさせていただく。もしくは、道中各地の天候情報を念入りに調べ、迂回ルートも想定して行動する」という則次さん。正にクラシックカー乗りのお手本のような方だった。